マルクス主義への懐疑と批判①欧米と日本の知識人の間にギャップがある 小宮隆太郎
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戦後の日本の近代経済学をけん引し、産業、貿易、金融政策で論争を挑み続け、「通念の破壊者」とも言われた小宮隆太郎氏が本誌(1970年11月10日号)に寄稿した39ページに及ぶ論考を再掲。当時、マルクス経済学が色濃く残る日本の経済論壇への批判的論文であり、近代経済学の立場から現代資本主義を展望する。
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こみや・りゅうたろう 1928年京都市生まれ。52年東京大学経済学部卒業。55年東京大学経済学部助教授。64年米スタンフォード大学客員教授。69年東京大学経済学部教授。88年通商産業省通商産業研究所所長。89年青山学院大学教授。東京大学名誉教授、青山学院大学名誉教授。戦後の日本の近代経済学をけん引する一方で、後進指導に尽力し、政財官界に多くの人材を輩出した。2022年10月死去。
現代資本主義は今後どのように発展してゆくのだろうか、また現在の経済・社会の体制をどのように理解するか、というような問いに対し、近代経済学の立場から、あるいは少なくとも近代経済学のこれまでの学問的なワク組みのなかから、答えうることはごくわずかである。
経済学者のビジョン
しかし、日本をはじめアメリカ・西欧等の先進工業諸国の経済体制の基本的な特徴をどのようにとらえるか、また産業における独占とか金融支配、現代社会のなかの貧困・悲惨・公害・ベトナム戦争をはじめ現代の戦争・軍事的緊張、経済政策をめぐる政治的な力関係、等々といった問題に対して、経済学を学ぶ者である以上、なんらかのビジョン(展望)を現にもっているはずであるし、またもっていなければならないはずである。
現代の経済をとりまく政治的・社会的環境や歴史的・制度的背景について、関心を払わないものは、実証的な社会科学としての経済学の研究者たる資格はない。しかし残念ながらそういう近代経済学者やマルクス経済学者は少なくないのである。
日本の知識人の間では、以下でも触れるように、いまあげた諸問題にかんしていまだにマルクス経済学ないしマルクス主義の影響がきわめて強い。この点でマルクス主義の影響がすでにかなり退潮してしまった、あるいはもともと大きくない、ヨーロッパやアメリカの知識人の平均的な観念と比べたときに、大きなギャップがある。
そうしてわれわれ「近代経済学者」と俗称されている日本の非マルクス派の経済学者たちは、マルクス経済学の現代資本主義論、帝国主義論、金融資本論、社会階級論、国家独占資本主義論等々について、つねづね考えさせられ、反発を感じ、また反省させられる機会が多い。
私は昨年10月に、ある機会に近代経済学の立場から、「現代資本主義の展開」というテーマで講演してほしいという依頼を受けたことがあった。そのとき、そのような大きな問題について、私自身、一体これまでどのように考えてきたのだろ…
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週刊エコノミスト
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