経済・企業

㊤大阪IRの経済効果に実現性はあるのか 木下功

会場となる夢洲(ゆめしま)
会場となる夢洲(ゆめしま)

 大阪経済の起爆剤として期待されるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)。民設民営としながら莫大な公費投入が前提にもかかわらず、見切り発車の疑念が尽きない。3回にわたり徹底検証する。

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 大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲(ゆめしま)は、2025年大阪・関西万博の開催地であるとともに、大阪府と大阪市が誘致を進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の舞台でもある。万博は会場建設を巡り、「本当に間に合うのか」という工期の問題と「どこまで膨らむのか」というコストの問題が表面化している。

 一方のIRも「経済効果の実現性」「夢洲の軟弱地盤対策」「ギャンブル依存症の増加懸念」「地域住民との対話不足」などさまざまな問題点に加え、IR事業者の撤退リスクが取り沙汰されている。IRは「民設民営」といいながらも莫大(ばくだい)な公費の投入が前提となっており、「見切り発車」で進めてよいという事業ではない。

 今回はオンラインカジノの台頭や中国の富裕層顧客の激減など、IRを取り巻く環境が大きく変わる中、「経済効果の実現性」について問題点を検証する。

収益はギャンブルから

 大阪府は9月28日、運営事業者の「大阪IR」と正式契約にあたる実施協定を締結。土地所有者の大阪市も同日、同社と事業用定期借地権設定契約を結んだ。実施協定は、事業スケジュールやリスク分担などを示したものだが、4月に国が認定した区域整備計画から大きな変更点があった。

 初期投資額は建設資材や人件費の高騰などで1900億円増加し、1兆2700億円に膨張。増加分は大阪IRの中核株主である米MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人とオリックスが負担する。開業時期は1年延期され、2030年秋ごろの予定だ。事業者が違約金なしで撤退できる「解除権」の行使期限も3年延期されて26年9月末までとなり、事業者が撤退するのではないかという疑念が出ている。

 では、変更前の大阪府・市が目指すIRとはどのようなものだったのか。

 4月に国から認可された整備計画での初期投資額は1兆800億円。出資金5300億円と金融機関からの借入金5500億円で調達する計画で、出資は米MGMの日本法人とオリックスがそれぞれ40%、少数株主の関西電力、パナソニック、大林組、JTBなど20社が20%という割合だった。

 一方の収益計画には夢のような数字が並んでいるが、実施協定でも大きな見直しはない。運営時の経済波及効果は年1兆1400億円で、雇用創出効果は9万3000人と想定。納付金などの自治体の収入額は年1060億円(納付金740億円、入場料320億円)で、府市に毎年530億円ずつ入るともくろむ。これだけの収入が加われば、自治体運営の自由度も高まる。ギャンブル依存症対策や警察・消防の強化、観光・地域経済・文化芸術振興、子育て・教育など多くの事業に活用するという。

 莫大な収入を支えるのは、年間来訪者2000万人(うち外国人は600万人)がもたらす5200億円の売り上げで、そのうち8割の4200億円をカジノが稼ぎ出す計算だ。つまり、顧客の「負け分」が収益の大半であり、ギャンブル依存症の急増が懸念される理由の一つがここにある。

観光庁委員会が疑問符

 しかし、本当に実現できるのだろうか。そもそも経済効果の根幹である年間来訪者数に対し、観光庁の有識者審査委員会が疑問符を付けている。4月に整備計画を認定した際の審査報告書で「推計の根拠が不明瞭」と指摘し、「推計に用いるデータの精緻化に取り組むとともに、その推計値の実現に向けた取り組みを着実に実施すること」を七つの条件の一つとして付した。他の条件も、地盤沈下などの土地課題対策▽地域との双方向の対話の場の設置▽実効性のあるギャンブル依存症対策──など事業の根幹に関わるものだが、現時点で条件は満たされていない。

 実施協定では、建設資材や人件費の高騰を理由に整備計画からコストを見直し、初期投資額を1900億円も増やしている一方で、収益計画に変更はない。中国の規制強化による富裕層顧客の急減やオンラインギャンブルの急成長という環境変化をどう捉えているのか。

 静岡大学の鳥畑与一教授によると、中国人顧客が多く、カジノの収益に頼っていたマカオのIR事業者はすでに大きくかじ…

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週刊エコノミスト

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