教養・歴史書評

中世が選んだ権力の構図とは王威・法威・武威の相互補完的関係か 今谷明

 武家(幕府)と天皇が並立していた問題は、日本中世史学界において長い間、一種の謎とされてきた。昭和から平成への代替わりの頃、松本清張が「学者に聞いてもこれを教えてくれない。わからないのだという」と新聞紙上に書いたことがある。

 著名な歴史家の網野善彦は、この問題を、漁民やろくろ師らの“非農業民”が、自分たちの職業を天皇と結びついた由緒あるものだとして生計を助けようとした動きに結びつけた。そしてこうした関係を、天皇の権威存続の根拠としようとしたのではないかと考えた。この説は一時は学界の注目を集めたものの、現在では通説になっているとは言いがたい状況である。

 しかし網野説登場よりはるか以前、西洋史家の堀米庸三が、封建制度の特質からこの問題に光を当てていたことは、日本史家には意外と知られていなかった。封建制の特質とは主従関係であり、横にはいくらでも拡張するが、縦の統合体は構成できない。だから武家は天皇を存置するほかなかったと堀米はいう。西欧社会も同様で、“ローマ帝国”の理念が生き続けたというのだ。

 関幸彦著『武家か 天皇か 中世の選択』(朝日選書、1870円)は、右記のように困難で複雑な命題を、“中世の選択”という副題が表しているように、諸勢力の選択として捉え、源平合戦から南北朝動乱までの公武諸対立を論じたものである。

 著者は中世を規定した最大の存在は武家であったとしつつも、王威・法威・武威…

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週刊エコノミスト

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