経済・企業 米自動車労組の大勝利
ビッグスリー一斉スト46日間 賃上げ勝ち取り年収1200万円超に 岩田太郎
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経営側から大幅な譲歩を引き出した全米自動車労働組合(UAW)の一斉ストライキ。影響は各方面に広がっている。
大統領選前哨戦の位置づけに
全米自動車労働組合(UAW)は、自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、さらにクライスラーの親会社である欧州のステランティスの米3大自動車メーカー(ビッグスリー)に対して9月15日から実施した史上初の一斉ストライキで経営側から大幅な譲歩を勝ち取り、46日間にわたる争議を10月30日に終了させた。
約14万6000人の組合員のうち、ピーク時に40以上の工場で5万人近くが参加したストで得られた暫定合意では、各社において車両組立工の賃金がこの先4年半で最低25%引き上げられるほか、2008年のリーマン・ショックで経営危機に陥った会社を救うため、労働者側が放棄した生計費インフレ調整の復活で、最高賃金は30%以上の引き上げとなる。
米経済政策研究所(EPI)によれば、基本給凍結や新型コロナウイルス流行後のインフレ高進のため、UAW組合員の平均賃金は08年からインフレ調整後で実質19.3%目減りしており、大幅賃上げでようやく物価上昇のペースに追い付くことになる。
EV工場も一部組織化
今回の合意により、時給は最高レベルで40ドル(約6000円)以上となり、年収は8万3000ドル(約1245万円)が保障される。加えて、退職金や年金に関する条件の改善、正規・非正規従業員を分断する給与体系の廃止、工場閉鎖をめぐるスト権獲得などの合意に至った。
新卒採用者の賃金水準を低く設定する制度は廃止され、最高賃金に達するまでの期間も8年から3年に短縮された。非正規労働者の賃金は即座に50%引き上げられ、契約期間中に累計150%の昇給が得られる。また、正規従業員になるための期間も短縮される。
さらに重要なのは、部品数や工程数が少ないことから賃金が低く設定されてきた電気自動車(EV)およびそのバッテリー製造工場も一部組織化されることだ。例えば、GMがカンザス州で生産予定の普及型コンパクトEV「シボレー・ボルト」の組立工や、フォードが韓国LGエネルギーソリューションとの合弁でミシガン州に建設するバッテリー工場の労働者は、UAWの基本契約に参加できるようになる。EVシフトによる失業や賃金低下は多くの組合員にとって死活問題であり、部分的とはいえ勝利を手にした意義は大きい。
ロイター通信によれば、新たな労働契約でGMの人件費は向こう4年半で70億ドル(約1兆500億円)増加する見通しだ。フォードにおいては生産される車両1台当たり最大900ドル(約13…
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週刊エコノミスト
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