教養・歴史書評

中国の理解に欠かせない「龍」の世界を堪能する 加藤徹

 来年は辰年。池上正治『龍の世界』(講談社学術文庫、1265円)は、年賀状の龍の絵を探している人にもお勧めだ。本書は2000年刊『龍の百科』を加筆修正し画像を追加した文庫本の新刊である。

 中国人と龍の歴史は長い。6000年前の新石器時代、紅山文化の遺跡からは羊脂玉(ようしぎょく)の龍が出土している。同じ新石器時代の彩陶や黒陶には、別の風格の龍の紋様が描かれている。4000年くらい前、黄河の治水に成功した禹(う)は、中国最古の夏王朝を創始したと伝わる。「禹」の古い字形の「虫」は龍と解釈できる。

 三千数百年前の殷(いん)王朝の甲骨文字を調べると、龍の姿を描いた古い絵文字から抽象化が進んだ線状の龍まで、さまざまな龍の文字がある。殷の女傑・婦好(ふこう)の墓から出土した黄褐色の玉製の龍は、大きな頭と丸まった尾をもち、きわめて力強い。

 龍はすぐれた人物の象徴にもなった。前6世紀の孔子は、老子と会見したとき、老子を龍になぞらえた。前3世紀、思想家の韓非子は君主を龍にたとえ「逆鱗(げきりん)」にふれるリスクを説いた。前漢の初代皇帝・劉邦は、母親が夢で龍と会い妊娠して生まれた人物とされる。歴代の王朝では皇帝の顔を「龍顔」、皇帝の服を「龍袍(りゅうほう)」と呼んだ。三国志の諸葛孔明は「臥龍(がりょう)」と呼ばれた。

 中国史上の名建築や、陶磁器や文房具などの工芸品には、歴代の職人が腕によりをかけ、躍動…

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