経済・企業

アベノミクスで雇用は回復 賃上げと“トリクルダウン”は不発 斎藤太郎

大企業を豊かにすれば家計に恩恵が及ぶと期待していた……(安倍晋三元首相)
大企業を豊かにすれば家計に恩恵が及ぶと期待していた……(安倍晋三元首相)

 アベノミクスは日本経済に何をもたらしたのか。物価高、人手不足に直面する今、検証する。

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 安倍晋三政権が推し進めた「アベノミクス」では、大企業を先行して豊かにすれば、その恩恵が中小企業や家計にまで波及するという「トリクルダウン」が期待されていた。しかし、実際にはアベノミクスの恩恵は企業部門にとどまり、家計部門の改善には至らなかった。本稿では、さまざまなデータを用いて、アベノミクスで良くなったこと、良くならなかったことを確認し、その原因について考えたい。

 第2次安倍政権は2012年12月〜20年9月の約7年8カ月だが、20年に入ってからは新型コロナウイルス感染症の影響で景気が急速に悪化したため、この期間を含めてアベノミクスを評価するのは適切ではない。ここでは12年末から19年末までを対象とする。

 アベノミクス景気を国内総生産(GDP)統計で振り返ると、実質GDPは12年10〜12月期から19年10〜12月期までの7年間で5.2%増、年平均で0.7%増の低い伸びにとどまった。需要項目別にみると、輸出(年平均3.9%増)、設備投資(同1.6%)は比較的堅調だったが、個人消費(同0.1%減)、住宅投資(同0.3%)はほとんど伸びなかった(図1)。GDP統計からは、企業部門の好調と家計部門の不振を読み取ることができる。

企業収益は顕著に改善

 設備投資が堅調に推移した背景には、アベノミクスの効果が最も顕著に表れた企業収益の改善がある。13年3月に就任した黒田東彦日銀総裁のもとで行われた「異次元金融緩和」と、それに伴う円安の影響で、法人企業統計の経常利益は12年の49.6兆円から19年には81.4兆円まで急拡大した。

 収益が増えたのは、円安の恩恵を受けた大企業だけという見方もあるが、これは事実と異なる。確かに、この間の増益率が最も高かったのは、資本金10億円以上の大企業で、7年間の増益率は76.7%増だったが、資本金1億円未満の中小企業も44.7%増と順調に収益を伸ばした。

 企業収益の改善は雇用の回復をもたらした。失業率は12年12月の4.3%から19年12月には2.2%へと大きく低下し、雇用者数は5495万人から6064万人と569万人の大幅増加となった。アベノミクスで増えたのは、パートタイム労働者などの非正規雇用だけという指摘がある。この間の雇用増の中心は女性、高齢者だったため、非正規雇用が約350万人増と全体の6割以上を占めたことは確かだが、正規雇用も約200万人増加した。これはアベノミクス以前には見られなかった現象だ。

 アベノミクスは企業収益、雇用の改善をもたらしたが、本格的な賃上げにはつながらなかった。春闘賃上げ率はそれまでに比べれば若干高まったが、最も高かった15年でも2.38%、定期昇給を除いたベースアップでみれば0.5…

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週刊エコノミスト

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