テクノロジー 毎日新聞・経済プレミアから
マツダがロータリーを再び開発「夢に近づく」とは?
「このコンセプトカーへ多くの賛同と激励をいただいた。皆さまに背中を押されて、この夢に近づくべく2月1日にロータリーエンジンの開発グループを立ち上げる」
自動車の祭典「東京オートサロン2024」が1月12~14日、千葉市の幕張メッセで開かれた。新春恒例のオートサロンは世界最大級のカスタムカー(特別仕様車)のイベントで、自動車メーカー各社トップの発言が注目される。今回、最大のサプライズはマツダの毛籠勝弘(もろ・まさひろ)社長が語った冒頭の発言だろう。これは何を意味しているのか。
冒頭のコンセプトカーとは、マツダが昨秋の「ジャパンモビリティショー」(旧東京モーターショー)に出品した「アイコニックSP」だ。マツダ伝統のロータリーエンジンで発電し、モーターで駆動するスポーツカーとして、クルマ好きの間で話題となった。燃料は「e-fuel(イーフュエル)」などカーボンニュートラル燃料を使うことを想定している。
マツダはロータリーエンジンを発電用に搭載したSUV「MX-30ロータリーEV」を2023年11月に発売。12年に生産を終了したスポーツカー「RX-8」以来、11年ぶりにロータリーエンジンを復活させたが、専門の開発グループは18年に解散していた。往年の「RX-7」をほうふつとさせるアイコニックSPは予想以上の反響で、マツダは世界で唯一、同社が量産したロータリーエンジンを再び本格的に開発することになった。
毛籠氏は「カーボンニュートラル時代に向けた課題をブレークスルーするため、エンジン方式の垣根を越え、鍛錬を積んだエンジニアたちが再結集する」と語った。「越えるべき技術課題はそう甘くはないが、あくなき挑戦の新しい一歩を進められればと思っている」とも述べた。
「切磋琢磨し社会実装を進める」
「越えるべき技術課題」とは、高効率のロータリーエンジンの開発はもちろんだが、最も高いハードルはe-fuelなどカーボンニュートラル燃料の実用化だろう。マツダはこれまでミドリムシや使用済み食用油などを原料に新興企業の「ユーグレナ」が開発した次世代バイオ燃料を国内の耐久レースで使用するなど実用化に向けた取り組みを続けてきた。
さらにトヨタ自動車とSUBARU(スバル)がこれまで耐久レースで使用しているカーボンニュートラル燃料を今年はマツダも用いるという。
毛籠氏は「カーボンニュートラル燃料への多様な技術をレースを通じて磨き、切磋琢磨(せっさたくま)しながら、その社会実装を進めるという趣旨で取り組んでいる」と、参戦の意義を強調した。
モータースポーツの世界ではカーボンニュートラル燃料の使用は当たり前になりつつある。世界最高峰のフォーミュラワン(F1)だけでなく、市販車がベースの日本の耐久レースも同様だ。
ホンダは電気自動車(EV)や燃料電池車の開発に専念するため、21年にF1からの撤退を決めた。そのホンダが26年シーズンから再びF1に参戦すると23年に表明したのも、カーボンニュートラル燃料ならエンジンでも脱炭素化が図れるからだ。
ホンダは今回のオートサロンで「クルマはレースをやらなくてはよくならない。これこそがホンダのDNAだ」と強くアピール。ホンダがエンジンを供給するF1やカーボンニュートラル燃料に対応したモータースポーツ参戦車両を展示した。
今回のオートサロンではトヨタの豊田章男会長が「カーボンニュートラルに向けた現実的な手段としてエンジンには、まだまだ役割がある」として、新たにエンジン開発を強化する方針を表明。「(EV化の時代に)逆行しているように聞こえるかもしれないが、決してそんなことはない」とも述べ、メディアをにぎわせた。
豊田氏は具体的な戦略を語らなかったが、「真実はいつも一つ。敵は炭素ということだ」と今回も持論を展開。水素やe-fuelなどを高効率な次世代エンジンで用いることを想定しているのは間違いない。
大手石油元売りが開発進めるが
問題はe-fuelなどカーボンニュートラル燃料の実用化だろう。国内で実際にカーボンニュートラル燃料を使用している耐久レース関係者によると、「ガソリンエンジンでも、わずかな調整でそのまま使える。性能的にも問題ない」という。
国内では大手石油元売りのENEOS(エネオス)や出光興産などが海外企業と開発を進め、出光は「20年代後半までに生産・供給体制の確立を目指す」としている。両社などが加盟する石油連盟は1リットル約200円を目標にしているが、現状は「ガソリンの3倍程度(1リットル当たり約600円)」(国内のレース関係者)という。大量生産とコストダウンは大きな課題だろう。
カーボンニュートラル燃料は開発目標などが明らかになっているものの、EVの次世代電池と期待される全固体電池と同様、実用化に向けた進展が少ないのが気になる。
昨秋のジャパンモビリティショーと今回のオートサロンで、カーボンニュートラル燃料や全固体電池の実用化に向けた新たな発表は皆無に近かった。いずれも脱炭素の「夢」で終わってほしくない革新技術だ。今年は双方とも実用化に向けた明るいニュースが、できれば日本の関連企業から相次ぐことを期待したい。
(川口雅浩・毎日新聞経済プレミア編集部)