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国際・政治 エコノミストリポート

技能実習制度に代わる「育成就労制度」は人権侵害を防げるのか 鈴木智也

技能実習生として渡日する前に日本語を学ぶ人たち(ホーチミン市で)
技能実習生として渡日する前に日本語を学ぶ人たち(ホーチミン市で)

 転職が認められず、人権侵害が横行する「技能実習制度」の廃止を政府の有識者会議が提言した。それに代わる新制度について解説する。

人手不足対応に外国人誘致

 外国人の未熟練労働者を受け入れる枠組み「技能実習制度」を発展的に解消し、「育成就労制度」を創設すべきだ──。政府の有識者会議は昨年11月、そんな内容の最終報告書を公表した。

 創設すべきとする育成就労制度は、人手不足が深刻な産業が対象。この枠組みで入国する外国人は3年間、企業内研修や実務を通じて職業上の技能や日本語能力を磨く。その後も日本で就労を希望する人は2019年創設の在留資格「特定技能」を取得し、キャリアアップを目指す。特定技能は人手不足が深刻な産業に即戦力となる外国人の労働力を供給する制度だ。対象となる人は、一定の専門性や技能をもつことが求められる。

 提言が実現すれば、1993年創設の技能実習制度は廃止される。同制度の目的は、日本の高度な技術や知識を発展途上国に移転するため、出身国の経済発展を担う「人づくり」に協力するというもの。しかし、実態は国内産業のブルーカラー職種の人手不足を解消する手段と化している。

 つまり、制度の目的と運用実態が乖離(かいり)しており、その状態は長年放置されてきた。さらに、この枠組みで働く外国人は、労働者の権利であるはずの転職を厳しく制限されている。理不尽な労働環境であっても転職が難しいため、人権侵害の温床になっているという批判も根強い。提言は、育成就労制度を創設することでそれらの問題を抜本的に見直すことを目指す。

新制度は転職制限を緩和

 技能実習生は原則として3年間、転職できない。「やむを得ない事情がある場合」はできるが、要件が明確ではない。一方、育成就労制度はその目的を「人材確保」と明確にし、より短い期間で転職を可能とする。「やむを得ない事情」の要件も、「労働条件について契約時の内容と実態の間で一定の相違がある場合」などと明確にし、対象範囲を広げて手続きを柔軟にする。外国人が来日前に送出機関や仲介者に支払う費用の一部を、雇用主が負担する仕組みも導入する。

 出入国在留管理庁の22年調査によると、技能実習生の約55%が来日前に借金を抱え、その平均額は54.8万円に上る。出身国によって差はあるものの、受け入れ人数が最も多いベトナムの場合、平均年収の十数倍となる。それだけの借金を抱え、転職も難しいとなれば、労働環境がいかに理不尽でも耐えるか、逃亡するしかない。提言が実現すれば、外国人にとっては来日前の負担が軽くなり、来日後は転職しやすくなり、労働者としての立場が強くなる。

 雇用主への影響はどうか。外国人労働者を雇用する際の負担が増し、人材獲得競争が熾烈(しれつ)化すると考えられる。新制度は人材育成も目的の一つとし、外国人が3年間の期間中、日本語能力試験に合格するよう求める。現行制度では技能実習から試験を受けずに特定技能に移行できるが、新制度から特定技能に移行するには技能検定試験に合格する必要がある。試験の合格率は雇用主や監理団体の育成能力や適性を図る指標となるため、コストを掛けて人材育成に臨む必要が生じる。また、転職制限が緩和されることで、外国人はこれまで以上に企業間の待遇差に注目するようになるはずだ。雇用主は外国人を雇用するため、賃上げや労働環境の改善で報いることが重要になる。

政府が積極化する背景

 有識者会議の最終報告書には明確な結論をまとめられず、曖昧さが残った部分もある。

 例えば、転職できるようになるまでの期間については「当分の間、受入れ対象分野によっては1年を超える期間を設定することを認めるなど、必要な経過措置を設けることを検討する」と記した(受入れ対象分野とは「建設」「農業」などの産業分類)。新制度で来日する外国人の在留期間は3年だから、転職できるまでの期間が長くなれば緩和効果は低下する。また、それぞれの雇用主が受け入れ可能な人数も明記しなかった。要件次第では、人材獲得競争に拍車が掛かる可能性もあり、最終報告書だけで影響を見極めることは難しい。

 新制度がどのような効果を発揮し、実際にどのような影響をもたらすかは、政府・与党・国会の議論が影響する。外国人と雇用主の双方の事情に配慮した仕組みとなるか。細部をしっかり見ることが必要だ。

 近年、政府は外国人を積極的に日本に呼び込む政策を展開している。19年には在留資格「特定技能」を創設し、外国人が従事できる職種を拡大した。23年には高度で専門的な知識や技術をもつ「高度人材」を誘致するため、在留資格「高度専門職」の取得要件を緩和。同年には、若く優秀な外国人材を呼び込むため、世界トップレベルの大学を卒業した人が日本で就職活動や起業準備などをするために在留資格を付与し、最長2年間の在留を認める制度も導入した…

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