算出方法で見え方も変わる実質GDP 田原慎二
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実質GDPの算出方式を変えてみる。すると、世間で言われていた景気とは違う姿が見えてくることがある。
経済指標は公表値の特質踏まえた解釈が必要
経済学について学んだことのある方は、GDP(国内総生産)には名目値(名目GDP)と実質値(実質GDP)があることをご存じだろう。名目GDPはその年の価格で作成したGDPであり、実質GDPは基準となる年(基準年)の価格で作成されたGDPである。名目GDPは価格の変化によっても増減するため、時系列比較には実質GDPを用いることが望ましいとされる。今回はGDPの時系列比較について考える。
まず、GDPの名目値と実質値の作成方法を、代表的な経済学の教科書である『マンキュー入門経済学(第2版)』に基づいて確認してみよう(表)。ホットドッグとハンバーガーのみを生産する経済があるとする。2010年の名目GDPはその年の価格と数量の組み合わせで、1ドル×100個+2ドル×50個=200ドルとなる。11年の名目GDPも同様に計算すると600ドルとなる。
続いて、10年を基準とした11年の実質GDPを計算すると、10年の価格と11年の数量を用いて1ドル×150個+2ドル×100個=350ドルとなる。名目値では600÷200で3倍になったが、価格の上昇分を除いた実質値で比較すると350÷200で1.75倍になったと解釈される。このように価格を特定の年に固定する方法は固定基準方式と呼ばれる。
価格と数量が大きく変わらなければ、固定基準方式で価格変化の影響を取り除くことができると解釈して差し支えないだろう。しかし、対象となる期間が長くなると、こうした方法が必ずしも妥当でない状況が出現してくる。
例として、基準年になかった財・サービスが出現したケースを考えてみる。近年、急速に普及した財の一つにスマートフォンがある。従来型の携帯電話とスマートフォンを別の財と見なし、スマートフォンが出現する前の05年を基準年として、24年現在の実質GDPを計算しようとすると、スマートフォンの05年価格がないため計算できないという問題が生じる。
実際の推計では、そこまで詳細に財・サービスが分類されていることはあまりなく、対応する価格がないという問題が生じることはほとんどない。日本の統計調査では、スマートフォンは携帯電話の一種として扱われ、同じ分類に含めて調査されている。しかし、スマートフォンが多くを占める現在の生産量を、携帯電話が多くを占めていた05年の価格で実質化するのは、あまり妥当ではないようにも思える。このように、推計対象となる期間が長くなるほど固定基準方式の弊害が大きくなる。
変化対応の実質GDPを算出する連鎖方式
こうした問題を解消するために用いられている方法として「連鎖方式」がある。連鎖方式による実質値は以下のように計算される。
まず、ある年(t年とする)の価格で作成したt+1年のGDP(t年を基準年としたt+1年の実質GDP)を作成し、それをt年の名目GDPで割ることでt年からt+1年への変化率を求める。同様にt+2年やt+3年についても求める。こうして計算した変化率を、基準となる年(参照年)の名目GDPに乗じていく、あるいは除していくことで、実質GDPを求める方法である。
先程の数値例でいえば、連鎖方式で計算した場合、11年の実質GDPは350ド…
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週刊エコノミスト
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