教養・歴史学者が斬る・視点争点

令和のたばこ事情㊤紙から加熱式へ 吉岡貴史

 たばこはアルコールと並ぶ代表的な嗜好(しこう)品だ。「加熱式」などの新型たばこに触れながら、令和の喫煙事情を2回に分けて読み解く。

テレビ番組が消費者の購入を助長か

「あなたは、たばこを吸いますか」。厚生労働省が年1回実施する国民健康・栄養調査と、3年に1回の国民生活基礎調査で必ず聞く質問だ。この質問に「時々吸う」または「毎日吸う」と回答した人が、統計資料における「現在習慣的に喫煙している者(以下、喫煙者)」とされる。ご存じの通り、日本の喫煙者は減少の一途をたどっている。

 国民健康・栄養調査によると、2009年に24.2%(男性38.8%、女性11.7%)いた喫煙者は19年には17.7%(男性28.5%、女性8.1%)と、約4.1人に1人から、5.6人に1人まで減少した。

 こうした喫煙者減少トレンドの中に、隠れたブームを読み取ることができる。その主役は「iQOS(アイコス)」(フィリップモリスジャパン社、14年発売)を代表とする加熱式たばこだ。実は先ほど述べた19年の喫煙者中、実に25%以上(男性27.2%、女性25.2%)が加熱式たばこユーザーだ。

「電子」には法の壁

 加熱式たばこは、電子たばことともに「新型たばこ」に分類される。微粒子を含む気体(エアロゾル)を吸う点は類似しているが、明確に異なる(図1)。

「加熱式」は従来のたばこと同様、たばこ葉を巻いたスティックをカートリッジに挿す。カートリッジから加温された蒸気が発生し、たばこ葉を温める。そのエアロゾルを喫煙するというスタイルだ。

 たばこの先端に火を着け、煙を吸う従来の紙巻きたばこと似ているが、紙巻きたばこの場合、たばこ葉の燃焼温度は600度程度で、吸って先端が赤熱している箇所の温度は800度にも達する。加熱式のたばこ葉の温度は200~350度にとどまる。

 加熱式は、たばこ葉を使っていることから適用される法律は「たばこ事業法」であり、「葉たばこを原料の全部又は一部とし、喫煙用、かみ用又はかぎ用に供し得る状態に製造されたもの」(同法第2条)に該当するため、喫煙用の製造たばこに位置づけられる。

 一方、電子たばこは化学物質を含む液体(リキッド)を電気加熱してエアロゾルを発生させ、それを吸うことで体の中に取り込む。北米を中心に、3000種類以上にも及ぶ味・香り(フレーバー)付きリキッドが販売されている。それが若者を中心に人気に火がつき、急速に普及したとみられる。

 実際、米疾病対策センター(CDC)によると、全米の高校生の11.3%が電子たばこの喫煙経験があるという。しかし日本では電子たばこはあまり普及しておらず、加熱式たばこの「1強」となっている。日米でなぜこうした違いが生まれるのか。

 葉たばこには依存性がある化学物質ニコチンが含まれているため、ニコチンを含む電子たばこのリキッドは医薬品医療機器法(薬機法)に基づき「医薬品」と位置づけられる。ニコチン入りの電子たばこ用リキッドを販売するには、薬機法に基づく厚生労働相の許可が必要だが、体に悪いニコチンを吸引する電子たばこ自体も「医療機器」と定義されており、一度も製造を認められていない。

 このため、ニコチンを含む電子たばこを喫煙するには、高いコストをかけてリキッドを個人輸入したり、輸入品を取り扱う店舗でリキッドを購入したりする必要がある。日本国内では法的な規制に…

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週刊エコノミスト

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