週刊エコノミスト Online学者が斬る・視点争点

教員不足は子どもの学力にも影響 北條雅一

 日本の公立の小・中学校では慢性的に教員が不足している。それは、子どもたちの学力にも悪影響を及ぼしている。

非正規教員に頼ることが恒常化

 先生が足りない。近年、全国の公立学校で教員不足が深刻な問題となっている。

 文部科学省は2022年1月、教員不足の実態に関する初の全国調査の結果を公表した。それによると、21年4月の始業日時点の小・中学校の教員不足数は全国で2086人。各教育委員会が配置を予定していた人数が約60万人なので、不足率は約0.35%となる。なお、山形県、東京都などは不足人数をゼロと回答している。

 こうした数字を見て、どのような感想を持つだろうか。深刻化しているとは大げさではないか、不足しているといっても不足率はわずかではないか、と思われるかもしれない。しかし、実はこの数字にはカラクリがある。

 本来、毎年度の始業日には、すべての学級に正規教員(正規雇用の教員)が配置されることになっている。だが、この正規教員が足りず、年度当初から欠員となるケースがある。そんなことがあり得るのかと驚かれるかもしれないが、00年代以降の地方分権改革の流れの中で、正規教員の人数や給与を削減して非正規教員に置き換える動きが全国的に広まった結果、年度当初から正規教員が不足するという事態が一部で発生しているのである。

育休の代替教員がいない

 正規教員の不足分は、年度当初から常勤の非正規教員(臨時的任用教員)を配置することで埋め合わされる。それでも不足する場合には、常勤的に働く非常勤講師(まさに形容矛盾である)を探して配置する地域もあるが、それでも不足分が埋まらなければ、あとは各学校で何とかするしかない。校長や教頭といった管理職や、別の職務(教科指導の充実や生徒支援)のために配置された教員が学級担任を受け持ったり、各教員が持ちコマ数を増やすなどして対応するのである。

 冒頭に紹介した文科省の全国調査結果のカラクリにお気づきの方も多いだろう。この調査で報告されている教員不足数は、正規教員の不足人数を表しているのではない。正規教員の不足分を臨時的任用教員や非常勤講師で埋め合わせた後に、それでもなお不足している人数を表しているのである。

 学校現場では近年、正規教員の採用者数が回復した00年代半ば以降に数多く採用された若い教員が出産・育児の時期を迎えていることに伴って育児休業取得者数が増加しているのだが、その代替教員を探すことすら困難になっている。筆者の子どもが通う公立小学校でも、隣のクラスの担任教諭の代替教員が見つからないためになかなか産休に入ることができず、最終的に副校長が学級担任を兼務することとなった。

 また、教員の病気休職者数も00年代に急増して以降高止まりしている。中でも精神疾患による休職者数は22年度に初めて6000人を超えた(図1)。

 日本の学校教員は世界一の長時間労働であることが知られている。年度途中に教員の休職が発生した場合には、その代替として非正規教員を採用して埋め合わせるのが通常の運用であると考えられるが、年度当初から多数の非正規教員を配置しているため、年度途中には非正規教員のなり手が枯渇してしまい、代替教員を見つけることが困難となる。

 実際に、休職者の発生→代替教員が見つからない→他の教員の過重労働→更なる病気休職者の発生──というドミノ倒しのような状況が発生し…

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