TSMC景気に沸く九州経済 経済効果は10年で約20兆円 植田憲尚
「シリコンアイランド」再興へ。半導体受託世界最大手が九州の半導体産業を大きく変えようとしている。
半導体受託世界最大手「TSMC」(台湾積体電路製造)の熊本県進出に伴い、九州は熱気に包まれている。国内有数の半導体産業集積地として、かつての繁栄を取り戻そうと、関係者の鼻息は荒い。
「約20兆770億円」。これは、シンクタンクの九州経済調査協会(福岡市)がはじき出した九州・沖縄・山口における半導体関連の設備投資による経済波及効果(2021年からの10年間の累計)だ。熊本県内では「半導体の話を聞かない日がないくらい」(地銀関係者)で、人材争奪戦や工場周辺の地価上昇など、地元は「半導体バブル」に沸いている。
半導体製造に必要な水資源や広大な用地に恵まれている九州は、1960年代から関連産業の工場が続々と進出。半導体原料のシリコンから「シリコンアイランド」と呼ばれた。半導体を使用する国内家電メーカーが世界市場をけん引した80年代以降も成長を続け、ピーク時の00年は半導体集積回路(IC)の生産額が国内シェア3割超の約1兆4000億円に達した。しかし台湾や韓国メーカーの台頭による日本の半導体産業没落に伴い、九州でも工場閉鎖が相次いだ。
ただ、素材や製造装置など日本が依然有数のシェアを占めている分野があり、現在でも九州に約1000社の半導体関連企業が存在する。TSMCの熊本県進出にはそうした土台が背景にある。
各社が大規模投資計画
2月24日に開所式を控える熊本県菊陽町の工場は、TSMCのほかソニーグループやデンソーも出資する運営子会社「JASM」が担う。投資額は約86億ドル(約1兆2000億円)。日本政府はそのうち最大4760億円を助成する。1700人を雇用し、24年末までに製品出荷を始めるという。
同工場では回路線幅12~28ナノメートル(ナノは10億分の1)の汎用(はんよう)品を生産する予定。TSMCは第2工場も熊本県内での建設を検討しているほか、第3工場設置の可能性も浮上している。実現すれば最先端の回路線幅3ナノメートルの生産も視野に入る。
また、TSMCの熊本進出に伴い、ロームの子会社が宮崎県に約3000億円規模を投じてパワー半導体の工場を建設するほか、京セラ、SUMCO、富士フイルムなど各社が九州で大規模な投資計画を進めている。
「新生シリコンアイランド九州の実現に向けた、100年に1度のチャンスだ」。23年秋、佐賀市内で開催された九州各県の知事や経済団体幹部が集う「九州地域戦略会議」後の記者会見で、九州経済連合会の倉富純男会長(西日本鉄道会長)はこう強調した。同会議で打ち出したのは、TSMCをはじめ九州で相次ぐ大規模投資の果実を確実に取り込もうと、自治体や関連企業に加え、金融機関や大学を加えた連携強化だ。
福岡銀行(福岡市)や肥後銀行(熊本市)など九州・沖縄の第一地銀11行は24年1月に連携協定を締結。共同融資や技術トレンド調査などを通じ、地場企業を支援する姿勢を打ち出した。九州経済産業局は、九州全体の産官学で連携した情報発信や人材育成などに乗り出している。
(植田憲尚〈うえだ・のりひさ〉毎日新聞西部経済部)
週刊エコノミスト2024年2月13日号掲載
半導体 TSMC景気に沸く九州経済 経済効果は10年で約20兆円=植田憲尚