テクノロジー

AIと次世代車がソニー躍進の種 浜田健太郎・編集部

ソニー・ホンダモビリティが展示した開発中のEV「AFEELA(アフィーラ)」(2024年1月、米ネバダ州ラスベガスで筆者撮影)
ソニー・ホンダモビリティが展示した開発中のEV「AFEELA(アフィーラ)」(2024年1月、米ネバダ州ラスベガスで筆者撮影)

 世界最大のデジタル技術の国際見本市「CES」は近年、電動化や自動運転などの技術革新が進展している自動車産業が主役の座を占めてきたが、2024年1月開催の今回は人工知能(AI)が自動車と注目を二分した。さまざまなコンテンツを生み出す生成AIについて、世界中から集まった出展各社が技術力を競い合った。

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 時流に乗るように日本勢の中で来場者の高い関心を集めたのが、ソニー・ホンダモビリティ(SHM、東京都港区)だ。同社はこの日、生成AIを使う対話型システムの開発で米マイクロソフトと協業すると発表。23年のCESで公開し開発中の電気自動車(EV)の「AFEELA(アフィーラ)」に搭載する。

 運転者が、AIとの対話を通じて「自分好み」の車内空間に仕立て上げていくことが開発の狙いだ。SHMの水野泰秀会長兼CEO(最高経営責任者)は、「パソコンやスマートフォンは使っているうちに自分の色に染まっていく。アフィーラはそうしたクルマにしていく」と提携の意図を説明する。

 そして、AIを利活用するもう一つの狙いが自動運転を見据えたADAS(先進運転支援システム)の進化だ。ここは、ソニー・ホンダに50%出資するソニーグループ(ソニーG)が強みを発揮する領域である。

 ソニーGは、「電子の目」としてスマホのカメラなどに搭載される半導体製品のCMOS(シーモス)(相補型金属酸化膜半導体)イメージセンサー(CIS)において、世界最大のシェアを持つ(図)。24年CESで公開したアフィーラは、クルマの周囲360度の状況を捉えるために45個のセンサー群を搭載して、そこから得られる情報を基に運転を支援する。アフィーラは25年前半に受注を開始し、26年春に北米で納車を始める予定だ。

EV参入の真意

 筆者は、新型コロナウイルスの感染爆発の直前だった20年1月に開催のCESで、ソニーが独自開発したEV試作車「ビジョンS」を発表した現場を取材。世界から集まった報道陣は“サプライズ”に不意を打たれたものの、ビジョンSの開発を担当したソニーの川西泉執行役員(当時)は、EVの商品化の可能性について、「現段階では『ない』というのが回答だ」と述べていた。

 その後、22年3月にソニーGとホンダはEVを共同開発する提携を発表して、SHMを設立(22年9月)。23年1月のCESで試作車を初公開した。

 SHMの社長兼COO(最高執行責任者)に就任した川西氏に、EVの事業化を否定した4年前の考えを変えた最大の要因は何かと、今年のCES会場で尋ねたところ、同氏は次のように回答した。「ビジョンSの発表により、予想以上に自動車産業から関心を寄せられたことに加えて、センサーなど自分たちの技術が生かせるという感触も得た」

 川西氏が「自分たちの技術」と呼ぶセンサー群を製造するのが、ソニーで半導体事業を担うソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS、神奈川県厚木市)だ。SSSは、ADASや自動運転に必要となるセンサー群として、CISのほかに、光による検知と距離測定を行うLiDAR(ライダー)、社内の様子を捉えるToF(トフ)センサーなどを手掛けている。

 ソニーGは、スマホ向けなどCIS全体の市場の世界シェアは47%とトップを走るが、後発の車載用CISの世界シェアだと25%(23年3月期実績)にとどまる。ソニーGは、26年3月期に車載用のシェアを39%に引き上げる目標を掲げ、「達成は見えてきている」(SSSの広報担当者)という。走行するクルマの周辺の視覚情報を収集するCISは、AIの性能を高める上で必須のデバイスだ。自動車へのAI機能の装備が加速することで、ソニーGの半導体事業の追い風になることは確実だろう。

 EV市場は、すでに米テスラや中国BYDなどが先行。「ガジェット(スマホなどの電子機器)のように使い倒してもらう」(川西氏)ことを訴求するアフィーラだが、その意図が消費者に受け入れられるかどうかは未知数といえる。しかし、自動車産業が「100年に1度の変化」を遂げる中で、ソニーGの半導体事業にはビジネス拡大の好機が続きそうだ。

(浜田健太郎・編集部)


週刊エコノミスト2024年2月13日号掲載

半導体 日本復活の号砲 AIと次世代車で躍進 ソニーの半導体事業=浜田健太郎

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