週刊エコノミスト Online 毎日新聞・経済プレミアから
NYタイムズが世界3位に選出「山口市」に鳥海高太朗が行く
今年、注目を集める観光地になりそうなのが「山口市」だ。米有力紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が毎年恒例の「2024年に行くべき52カ所」を発表し、山口市を世界の名だたる旅行先の中から3番手(3位)で紹介しているからだ。
昨年(23年)は盛岡市が2位に選ばれた。選出時は地元民から驚きの声も聞かれたが、その後、国内でも大きく取り上げられたことで、インバウンド(訪日外国人旅行者)はもちろん、たくさんの日本人観光客も現地を訪れ、経済効果は大きかった。
だが、このとき以上に驚いているのが今回の山口市民だ。観光地としては国内でも知名度が高いとは言えない山口市。いったいこの場所に何があるのか。
「西の京都」とも
ニューヨーク・タイムズは山口市が「西の京都」とも呼ばれ、人口約19万人のコンパクトな街であると紹介している。京都などと異なり観光客で混雑しておらず、オーバーツーリズムと無縁でゆっくり観光ができるというわけだ。市内には国宝の「瑠璃光寺五重塔」があり、近場には「湯田温泉」もある。地元グルメではおでんや鍋料理の店、コーヒーショップといったところだ。
地元の人が驚いている理由は、県内にはもっと有名な観光地があるからだ。県東部の岩国市には観光名所の「錦帯橋」があり、西の下関市は九州への玄関口。フグ料理の本場でもある。北へ行けば世界遺産の「萩城下町」などがある萩市、「山陰の小京都」と呼ばれる津和野町(島根県)もある。正直、これまでは山口県を訪れても、山口市内をまわる観光客は多くなかったのだ。
筆者も山口県は何度も行ったことがあるが、山口市を観光で訪れたことはなかった。そこで3位選出直後の週末、さっそく山口市へ向かった。
レンタカー移動がおすすめ
山口市へは新幹線で向かうこともできるが、東京からなら羽田空港から山口宇部空港まで飛行機で行き、現地ではレンタカーで移動するのが便利だ。山口宇部空港にはレンタカーの専用ターミナルがあり、そのまま車で出発できる。
山口市内へは車で約40分。まずは瑠璃光寺五重塔に向かった。
事前に報道もされていたが、瑠璃光寺五重塔は現在、屋根の全面ふき替え工事が行われている。工事用シートで完全に囲まれており、実物を見ることはできなかった。26年3月までの工事期間となっているが、今回、注目を集めたことで、工事用シートの一部を透明のパネルに取り替えることを山口県の村岡嗣政知事が表明した。今年3月末までに整備する予定となっている。
工事中の状況で今回の選出となったのは少し残念だが、瑠璃光寺内は他にも見どころがある。庭などはのどかな感じで京都の雰囲気もあり、とてもよかった。
ローカルフード「ばりそば」を堪能
瑠璃光寺を訪れたあと、おなかもすいたので山口市の名物「ばりそば」を食べにいった。麺がかた焼きになっており、野菜などが具だくさんで鶏ガラのあんかけがかかっているご当地グルメだ。筆者は10年以上前に食べて以来だったが、コクがあってとてもおいしい。これを食べにまた来たいと思うくらいの味だった。
次に向かったのは湯田温泉。JR山口駅の1駅隣、湯田温泉駅から徒歩で行ける便利な場所にある。
湯田温泉は1日2000トンもの湯が湧き出る天然温泉だ。アルカリ性の高い温泉で「美肌の湯」とも言われる。筆者も実際に入ってみたが、やわらかいお湯で瞬く間にいやしの時間に。まさに体の疲れが取れてくる感じだった。
もう一つ、非常によかったのが「足湯」の充実だ。まず湯田温泉駅前にも足湯があり、列車を眺めながらつかることができる。温泉街の中心部にある観光拠点施設「狐の足あと」の足湯もおすすめだ。カウンター型の足湯もあり、湯につかりながらコーヒーやスイーツ、日本酒などを味わうことができる。
短時間でも楽しめる
このほか「山口ザビエル記念聖堂」や「雪舟庭」などのスポットも、落ち着いた雰囲気でとてもよかった。なかなか訪れることがない場所だが、今回、注目されたのがよいきっかけとなった。
山口市はニューヨーク・タイムズの紹介文にもあるとおり、街がコンパクトにまとまっており、短時間でも楽しめる場所だ。車がなくても鉄道やバスなどでゆっくりとまわれる。室町時代、京都を模した街づくりが進められたことから「西の京都」を感じることもできるだろう。「山口祇園祭」など京都を意識したお祭りやイベントも多い。この機会にぜひ訪れてみてはいかがだろうか。