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週刊エコノミスト Online ロングインタビュー情熱人

カレーに無限の可能性を求めて――水野仁輔さん

「世の中にないカレーを生み出すことが楽しいのです」 撮影=武市公孝
「世の中にないカレーを生み出すことが楽しいのです」 撮影=武市公孝

カレー研究家 水野仁輔/131

みずの・じんすけ 1974年生まれ、浜松市出身。98年、明治大学商学部を卒業。広告会社勤務の傍ら99年からカレー専門の出張料理人として全国各地で活動。2016年からAIR SPICE代表取締役となったことを機に、サラリーマン生活に終止符を打つ。AIR SPICEで本格カレーのレシピ付きスパイスセットを届けるサービスを展開中。17年に「カレーの学校」を立ち上げた。ジンケ・ブレッソン名義で記録写真家としても活動。近著は『水野仁輔 システムカレー学』(NHK出版)、『調理科学×カレーの事典(食の事典シリーズ)』(朝日新聞出版)など。

 カレーの魅力に取りつかれ、カレーについての活動を始めて25年。独自のレシピを考案し、国内外を駆け回る。どんな体験も物事もカレーに置き換える性分。生きている限り、カレーについて考え続ける。(聞き手=永野原梨香・ライター)

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── 水野さんが監修した今年6月発売の『食の事典シリーズ 調理科学×カレーの事典』(朝日新聞出版)では、さまざまなカレーに使われる食材がどんなおいしさを生み出しているかを分析しています。

水野 人それぞれ、おいしいと思うカレーは違いますよね。ある人は甘いバターチキンカレーが好きで、ある人はスパイスたっぷりの香り高いキーマカレーが好きだったりします。そこで、カレーのおいしさを「濃い味」「強い味」「甘い味」「深い味」「香り・風味」の五つに分類し、それらの味を生み出す食材は何かについて分析しました。どんな食材がどれぐらいの割合で入るかで、おいしさの方向性は変わってきます。

 例えば、甘い味のカレーの場合はバターやフルーツなど糖類を多く使い、インパクトのあるガツンとしたカレーの場合は、乾燥スパイスやみじん切りのタマネギを炒めて香ばしい香りを出し、塩を多用する。名店や僕のレシピを紹介しつつ、使われている食材が生み出すおいしさについてひもといているので、参考にして自分好みのカレーを作ってもらえたらうれしいです。

── 食材に着目したきっかけは?

水野 カレーをおいしくする方法は二つあります。一つは材料の工夫、もう一つは作り方、テクニックの工夫です。僕は長年、テクニックの方ばかり研究していましたが、読者からすればテクニックは磨かなければならずハードルが高い。その一方、材料の工夫は誰でもできます。この本は僕が初めて、徹底的に食材に向き合った本です。

 僕は仲間数人とカレーを作ってイベントなどで提供する「東京カリ〜番長」という活動をする中で、バターや砂糖、ニンニク、唐辛子を増量すると受けがいいことを実感しました。それだけでなく、そのほかの食材もおいしさを生み出す要素で、例えばタマネギの炒め具合はアメ色かキツネ色か、1人分のカレーに1個分を使うのか3個分を使うのかで味わいは変わるんです。

── 同時期に『水野仁輔 システムカレー学』(NHK出版)も出版しています。

水野 こちらは、テクニックについての現時点での集大成です。これまで150冊以上の本に関わってきました。編集部から頼まれてもいないのに海外に自費で行って本に情報を盛り込み、収め切れなかったマニアックなスパイスの話などは自費出版で販売してきました。商業出版の印税は、ほぼ自費出版の赤字補填(ほてん)でなくなっています(笑)。

 もともとカレー好きだった水野さん。1999年、広告代理店に勤めつつ、仲間数人と結成したグループ「東京カリ〜番長」の一員として、週末にカレーを作ってふるまうイベントの開催を始めた。そこで知り合った雑誌編集者から名店のカレーを食べ歩く連載を頼まれたことをきっかけに、メディアへと活動の場を広げていった。 水野さんが2010年に提案した、スパイス数種類を組み合わせて作る「スパイスカレー」は全国で流行。16年に広告代理店を退社し、水野さん考案のカレーを作るスパイスセットの通信販売「AIR SPICE(エアスパイス)」を立ち上げたほか、世界のカレー事情からレシピまでを学ぶ「カレーの学校」の開催や、キッチンカーでのカレー提供を各地で行っている。

「スパイスや食材の使い方や組み合わせでまったく違う味わいになる。最初に好きになったので、どうしようもないですね」

── そんなにカレーが好きな理由は?

水野 最初に好きになったものがカレーだったので、もう、どうしようもないですね。出身地の浜松市にある「ボンベイ」というカレー屋さんが6、7歳のころから大好きでした。日本人が作る本格的なインドカレーです。大学進学後、同じようなカレーを求めて全国を食べ歩きました。カレーやスパイスについて深く考えるようになったのはそのころからでしょうか。カレーはスパイスや食材の使い方や組み合わせで、まったく違う味わいになる。無限の可能性を秘めています。「東京カリ〜番長」の活動を通して、カレーが人とのコミュニケーションを生み出すことを体感し、さらにはまりました。

再販も卸販売もコラボもしない

── エアスパイスのスパイスセットには、カレー4人分を作るのに必要なスパイスの量とレシピが掲載されています。

水野 グラム数を公開すれば、お客さんは自分でスーパーなどでスパイスを購入し、同じカレーを作ることができるでしょう。スパイスセット…

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