名物プロモ部長の新たな挑戦――天野春果さん
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ツーウィルスポーツ代表、南葛SCプロモーション部長 天野春果/129
あまの・はるか 1971年東京都生まれ。都立駒場高校から米ワシントン州立大学に進み、96年に卒業。同年のアトランタ五輪でボランティアを務めて帰国し、97年に現川崎フロンターレに入社。ホームタウン活動に携わる。2002年サッカー・ワールドカップ日韓大会の組織委員会出向を経て、川崎プロモーション部長として数々の斬新な企画を実行。17〜20年は東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会に移った後、川崎に戻って23年に退社。24年2月にツーウィルスポーツ(TWS)を設立し、代表に就任。同月から南葛SCのプロモーション部長。
選手が地元銭湯をPRする「おフロんた〜れの日」、選手が登場する算数ドリル──。川崎フロンターレで「名物プロモ部長」として知られた天野春果さんが新たな挑戦の舞台に選んだのは、漫画「キャプテン翼」のあのクラブだ。(聞き手=元川悦子・ライター)
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── 「キャプテン翼」の漫画家、高橋陽一氏がオーナーを務める関東サッカーリーグ1部の南葛SCは、今年に入ってから斬新な企画を次々と展開しています。所属選手が地元のサウナで“熱波師”(サウナ室内で熱い風をタオルであおぐ人)になるのもその一例で、大きな話題を呼んでいますね。
天野 南葛SCのホームタウン、東京都葛飾区にあるサウナの名店「サウナ&カプセルホテル・レインボー新小岩店」で毎月第2、4火曜日に1日3回、「南葛サウナクラブ」のメンバーが登場し、熱波を送る活動を今年7月から始めました。南葛サウナクラブはサウナ好きの南葛SCの選手が集まり、サウナを中心に地域密着活動をするのが目的です。
── どんな効果を期待しているのですか。
天野 サウナのお客さんが1回平均25人いれば、1日75人、1カ月で150人が南葛の選手と対面します。熱波師は必ずあいさつや自己PRをするので、南葛や彼ら自身のことを知ってもらえる。そんな機会は実生活の中ではなかなかありません。お客さんも「そういう選手がいるなら一度、スタジアムに行ってみるか」と意欲が湧くかもしれません。サウナ施設側も喜んでくれていますし、地域貢献にもなる“一石三鳥”の企画なんです。
僕がJ1川崎フロンターレでプロモーション活動をしていた2010年から、川崎市内の銭湯でつくる川崎浴場組合連合会と連携し、毎年2月6日の「お風呂の日」の前後で「おフロんた〜れの日」を設けて選手と一緒にPRを続けています。裸の付き合いができるお風呂とサッカークラブの親和性は意外にも高く、観客動員増にもつながったと考えています。
── 南葛にはワールドカップ(W杯)に出場した元日本代表の今野泰幸選手や稲本潤一選手も在籍しています。そうした選手の協力を得て、その他にもユニークな仕掛けを次々に展開していますね。
天野 7月6日の東京国際大学FC戦(関東リーグ1部9節)では、「なんかつアニマルパーク“NANKA ZOO”(ナンカズー)」を開催し、今野選手ら4選手にネコのメークをしてもらいました。9月8日の東邦チタニウム戦(同15節)では、稲本選手を葛飾区が生んだ映画「男はつらいよ」のヒーロー、寅さんに仕立てたイベントも実施しました。
「日本代表としてW杯に出た有名選手にそれをやらせるの?」と驚いたスタッフもいましたが、彼らは苦笑いしながらも積極的に協力してくれました。現場とフロントが一丸となって盛り上げていくことが成功への一歩。僕自身も率先して汗をかいています(笑)。
下町の葛飾区は“黄金郷”
南葛SCは世界的な人気を誇る「キャプテン翼」の主人公、大空翼が所属するチームと同じ名前のクラブ。葛飾区出身の作者、高橋さんが13年、前身クラブの後援会長に就任したことをきっかけに現名称へ変更した。19年には高橋さんが代表取締役を務める株式会社南葛SCを設立し、トップチームの運営を移管。漫画の世界を飛び出し、積極的な補強も重ねてJリーグ入りを目指している。
「『キャプテン翼』から地域に愛されるクラブに」
── 今季、南葛のホームスタジアム(奥戸総合スポーツセンター陸上競技場)での観客数は1試合平均1558人。昨季から約300人ほど増加していますが、Jリーグと比べるとやはり少ない印象です。
天野 そうですね。地域を回って実感したのは、人々に認知されているのは「キャプテン翼」であって、南葛SCというサッカークラブではないという点。クラブの人材配置や基盤作り、告知活動を含め、あらゆる面を整えるところから手掛けなければいけません。プロモーションでも、ホームゲームのたびに人の目を引く面白い仕掛けが重要になります。
── 南葛に関わったきっかけは?
天野 昨年末に長く働いた川崎を辞め、仲間2人とツーウィルスポーツ(TWS、東京都渋谷区)という会社を起業し、地域とスポーツをつなげる仕事を始めました。そんな時、12〜16年に川崎監督を務めた風間八宏さんが南葛の監督に就任する話を耳にして、「もう一度、一緒に働きたい」と思ったのです。風間さんは地域に愛されるクラブ作りを真剣に考えている指導者。南葛の経営陣も僕らの考えに共感してくれました。
実際にクラブに関わり始めて、思った以上にポテンシャルがあるなと感じました。…
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週刊エコノミスト
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