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教養・歴史 ロングインタビュー情熱人

映画「Cloud クラウド」公開――黒沢清さん

「主人公の吉井良介を、菅田将暉さんがいい案配に演じてくれました」 撮影=武市公孝
「主人公の吉井良介を、菅田将暉さんがいい案配に演じてくれました」 撮影=武市公孝

映画監督 黒沢清/127

くろさわ・きよし 1955年7月、兵庫県出身。80年、立教大学社会学部卒業。大学在学中から8ミリ自主映画を撮り始める。長谷川和彦監督、相米慎二監督らの助監督を経て、映画製作会社「ディレクターズ・カンパニー」に参加し、「神田川淫乱戦争」(83年)で商業映画デビュー。「回路」(2000年)で第54回カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞。他の監督作に「CURE」(97年)、「トウキョウソナタ」(08年)、「岸辺の旅」(14年)、「散歩する侵略者」(16年)、「スパイの妻」(20年)、セルフリメーク版「蛇の道」(24年)、「Chime」(24年)など。

 カンヌなどの国際映画祭での受賞歴を持ち、ホラーをはじめさまざまなジャンルの映画を撮り続けてきた黒沢清さん。9月27日公開の「Cloud クラウド」は、黒沢さんが久しぶりにアクションを取り入れたサスペンススリラーだ。(聞き手=りんたいこ・ライター)

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── 黒沢さんの映画は謎めいた物語が多い中、今回の「Cloud クラウド」は、8月28日開幕の第81回ベネチア国際映画祭での世界初上映が決まった際、「シンプルな娯楽映画を目指した」とコメントしていましたね。

黒沢 映画作りというのは毎回、「こういうものを作りたい」という僕の素直な欲望と、「こういうものを作ってほしい」という外からの要請の調和で作られています。そこには予算や天候の制約があり、俳優も自由自在に動かせるわけではありません。そのバランスをどう取っていくかが映画作りの本質だと思っています。今回もそうではありましたが、バランスはうまく取れた気がします。

── 今回の「素直な欲望」とは?

黒沢 当初から、主人公が敵を倒していく分かりやすいアクションにもっていきたいという欲望は持っていました。ただ、僕がこだわったのは、主人公も敵側の人たちも普通の人ということ。ヤクザや刑事を出してくればもっと分かりやすくなりますが、普通の人が生きるか死ぬかという状況に追い込まれていくところが、脚本を作っていても、撮影していても、一番大変なところでした。

── それをどう乗り越えたのですか。

黒沢 主人公の吉井良介は決して悪人ではありませんが、犯罪すれすれの仕事柄、生きるか死ぬかの状況に巻き込まれていき、もともとあった日常が破壊されてしまいます。曖昧でとらえどころのない役ですが、それを菅田将暉さんがワル過ぎず、善人過ぎず、あくまで普通の人をいい案配に演じてくれたことが、分かりやすさにつながったと思います。

「ネットを通じた現代の凶暴性を物語に」

 9月27日公開の映画「Cloud クラウド」は、他人から安く買いたたいた品物をインターネット上で高値で販売する、俳優の菅田将暉さん演じる転売屋の吉井良介が、やがて人々から恨みを買い、“狩りゲーム”の標的になっていくというサスペンススリラー。黒沢さんが脚本を書く上でヒントにしたのは、インターネット上で知り合った者同士が、標的となる人物を殺害したという実際にあった事件だ。 黒沢さんは、匿名性を利用し、「ゲームのように人を殺してしまうことに衝撃を受け、現代社会ならではの凶暴性を感じた」と同時に、「インターネットを通じた殺意のエスカレートをうまく活用すれば、暴力と無関係な人たちがのっぴきならない殺し合いにまで発展してしまう物語ができるかもしれないと思いついた」と言う。

拳銃が一瞬で作り出す関係

── ガンアクションを取り入れたのは、どのような意図からですか。

黒沢 持っていることがはっきりと分かる武器だと殺意がすぐに見えてしまいますが、拳銃は小さいので予測できない。それに拳銃は10メートルくらい離れていても一瞬にして殺す、殺されるという関係を作り出せる。昔のアメリカの犯罪映画を見ていても、拳銃を使ったドラマチックな作品がたくさんあるので、自分の映画でもうまく使ってみたいと常々思っていました。

── 最近は動画配信サービスを利用して映画を見る人が増えています。黒沢さんも今年4月に中編の配信作品「Chime」を世界同時販売しました。パソコンやスマートフォンで映画を見ることをどう捉えていますか。

黒沢 確かに、映画館の大きなスクリーンでみんなと一緒に見られることが理想ですが、そうしたことが可能な人ばかりではありません。僕自身も見逃した映画が配信で出ていれば、つい見てしまいますからね。今では僕が撮るのは映画であれドラマであれすべてデジタルで、パソコン画面で見ても何の遜色もありません。映画館と配信という見る側の手段の違いは、少なくとも作っている側は考える必要がないという時代です。

 1980年の立教大学卒業前後から長谷川和彦監督や相米慎二監督らの作品の助監督を務め、83年に「神田川淫乱戦争」で商業映画デビューした黒沢さん。その後はホラーやサスペンス、さらにホームドラマなど多岐にわたるジャンルの映画を手掛けてきた。これまで、「回路」(2000年)や「岸辺の旅」(14年)がカンヌ国際映画祭で受賞するなど、国内外で高い評価を得ている。 黒沢さんは05年4月~23年3月、東京芸術大学大学院映像研究科映画専攻の教授を務めた。教え子には「ドライブ・マイ・カー」(21年)の濱口竜介監督らがおり、その…

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