日本食と料理人の「力」――森田隼人さん
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六花界グループCEO 森田隼人/122
もりた・はやと 1978年7月、大阪府生まれ。近畿大学理工学部を卒業後、建築会社で働きながらプロボクサーに。25歳で独立して建築デザイン事務所を設立。約1年間、東京都で職員としても勤務。店舗設計の知識を生かし、32歳で立ち食いの焼き肉店「六花界」をJR神田駅前にオープン。次々に新しいスタイルの飲食店を開店するほか、和牛ブランド「もりたなか牛」も開発。日本酒造青年協議会から2017年、「酒サムライ」叙任。20年に農林水産省「料理マスターズ」ブロンズ賞受賞。主な著書に『2.2坪の魔法』(ダイヤモンド社)。
ある時は日本酒を醸造しながらロシアを横断し、ある時は黒毛和牛とともに徒歩で旅をする。唯一無二の和牛料理店の経営者にしてシェフの森田隼人さんが今、その並外れた行動力で挑んでいるのは──。(聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)
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── 西アフリカのナイジェリアにある世界最大規模の水上街「マココ」でレストランを計画しているそうですね。最大都市ラゴスが面する潟湖(せきこ)の上に無数の家が建ち並ぶスラム(貧民街)と聞きます。どんな計画なのですか。
森田 その前にちょっとお話しをさせてください。新型コロナウイルス禍では医療、流通、飲食の3業界が大変な状況になりました。この時に僕は、飲食店の将来って何だろうと考え、いろいろな人の話を聞いてみました。すると、お金の話ばかりする人と、社会貢献の話をする人がいたんです。これってフェーズ(位相)が違っているわけで、そのフェーズをどうやったら埋められるかを考えたんです。
── 単なるお金もうけでも社会貢献でもない事業を、ということですね。
森田 僕は今、元気だし若いから、意味がないことはやりたくない。海外進出の話をいただくことも多いので、いろいろと調べていくと、日本より人口が多くて貧富の格差がものすごく、食を必要としているところがあった。1日の半分が停電しているため冷蔵庫も置けない。それがナイジェリアのマココだったんです。ここには25万人が暮らしているともいわれます。
「ナイジェリアのスラムを解放できたらステキ」
そこで、2023年5月に初めて現地へ行ってみると、彼らが家族を幸せにするにはアーティストかサッカー選手か音楽家になるという三つの方法しかない。そこで、僕は4番目の夢を作ろうと考えた。料理人です。マココの人たちが将来、料理人になって貧困から脱出し、スラムを解放できたらステキじゃないですか。夢がありますよね。なので今、現地に僕の料理の技術を学んでもらえるようなレストランを作ろうと思っているんです。
── ただ、現地には水もないし電気もありません。
森田 必要なものは日本から科学と料理という二つのテクノロジーを持って行けばいいと思っています。空気中の水蒸気を水にできる機械があり、ソーラーパネルの電気を使って動かすことができる。もう一つは日本の発酵文化。塩締め、酢締め、昆布締めといった技術を教えてあげれば、料理の幅は格段に広がるんです。釣った魚をその場でくん製にすれば食材として保存もできます。それをマココのレストランで提供するんです。
── 計画は具体的に動き出しているのですか。
森田 はい。今、現地で会社登記を進めているところで、この秋にはオープンしたいと思っています。もう場所は決まっていて、そこに看板を付けてソーラーパネルを付ければ終わりです。後は僕が行って料理を出せば人は来るし、スラムの子どもたちに料理を教えれば、僕がいなくてもお客さまに料理を出し続けることができます。
── 利益を度外視した社会貢献活動では長続きしません。採算性は?
森田 その国の人たちだけで回そうとしても利益は出ませんが、毎日のようにNGO(非政府組織)の関係者が視察に来るんですよ。その人たちを顧客にするんです。日本料理は今、世界中で人気があり、日本人がナイジェリアにレストランを作ったという話題性があれば、海外から来る人たちを呼べます。その人たちが払ってくれる1日のお金で、おそらく彼らの1カ月分の給料が得られるでしょう。お金があれば陸の上に住まいを買える。そうすれば学校にも行けるようになる。これがすごく大事なところです。
「立ち食い」焼き肉店ヒット
大阪府出身で現在46歳の森田さん。近畿大学理工学部を卒業後、建築会社で働きながらプロボクサーになった異色の経歴を持つ。25歳で独立して建築デザイン事務所を設立し、32歳の時に東京・神田のJR神田駅前に立ち食いの焼き肉店「六花界」をオープン。現在は六花界グループCEO(最高経営責任者)として、東京・鶯谷にある住所非公開、完全会員制の和牛懐石店「クロッサムモリタ」など7店舗を経営する。
── 09年に東京・神田にオープンした立ち食いの焼き肉店は大ヒットしたようですね。
森田 当時はそういう店がなかったから、当たっちゃいましたね。でも、2.2坪(約7.3平方メートル)と狭い店なので、売り上げはそんなに上がりません。だけど、人とコミュニケーションがすごく取れるんです。話をしながら肉を焼いていると、みんな仲良くなって、そこで就職が決まったり、恋愛が結婚に発展したりすることもあるんです。
── 開業資金はどう工面したのですか。
森田 全部…
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週刊エコノミスト
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