おかしなことにアンテナを――堤未果さん
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ジャーナリスト 堤未果/123
つつみ・みか 米ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒、ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連女性開発基金(UNIFEM)、米国野村証券などを経てジャーナリストに。政治、経済、医療、教育、農政、食、エネルギーなど多方面な分野で取材を続ける。『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)で日本エッセイスト・クラブ賞、中央公論新書大賞受賞。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』(新潮文庫)で黒田清・日本ジャーナリスト会議新人賞受賞。ウェブ番組「月刊アンダーワールド」キャスターを務める。
先入観を排し、関心を持ったらどんな分野でも取材に行くことを信条とする堤未果さん。あまりに世の中が目まぐるしく動く中で、最新刊で試みたこととは──。(聞き手=北條一浩・編集部)
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「多くの国民が抱く違和感を肯定したい」
── 今年4月に刊行した『国民の違和感は9割正しい』(PHP新書)では、今年1月に起きた能登半島地震への政府対応のやる気のなさや、水道など生活に密着したライフラインの民営化など、数々の問題のからくりを平易に解き明かしました。
堤 出版社と当初は別のテーマで本を書こうと相談していたのですが、能登半島地震が起きたニュースを見た瞬間、頭の中で「これを機にラジカルな法改正が一気に進むな」という警報が鳴ったんです。昨年末に防衛装備移転三原則の改正といったきな臭い動きがあったことも念頭にありました。ただ、最近はこうした動きに違和感を覚えてもなかなか口に出しづらい空気があり、正面から警鐘を鳴らしてもなかなか響きません。
そこでまずは、「人々の違和感を肯定してみたらどうか」と考えたんです。出版社には「1カ月で書くから」と伝え、急きょ変更することにしました。
── 確かに、いつの間にか重要な法改正が成立していたことは少なくありませんね。
堤 そうなんです。例えば、この本でも法案の段階で触れていますが、今年6月に参院で可決・成立した改正地方自治法は、大規模な災害や感染症などが起きた時に国が地方自治体に危機対応を「指示」できるようにする内容です。国と地方は本来、対等な関係であり、地方自治は憲法で保障された権利です。しかも現行法を見ると、今のままでも十分に対処できるのに、違和感を覚えざるをえません。
また、6月に参院で可決・成立した食料供給困難事態対策法は、コメや小麦、大豆、肥料や飼料などが大幅に不足した際、政府が生産拡大や出荷調整の指示を出して農家や販売業者などに生産や出荷販売計画を作らせ、従わない場合には20万円以下の罰金という内容です。計画を作らせたから増産できるとでも思っているのか、と農家が首をかしげています。つまり、法改正の目的自体に違和感を感じるのです。
── どちらも「緊急事態」とか「有事」がキーワードですね……。
堤 はい。その二つは古今東西、為政者にとって憲法や法律を飛び越えて権力を集中させられる「伝家の宝刀」なのです。新型コロナウイルス禍でも、多くの国で自国民の行動制限に使われました。岸田文雄首相が憲法改正に盛り込もうと意欲的なのも「緊急事態条項」であり、こうした法改正はその地ならしとして地方から外堀を埋めていく作戦でしょう。
── しかし、違和感を覚えても深くは考えず、日々の生活に流されてしまいがちです。そうしたアンテナを立てられるようにするにはどうすればいいのでしょう。
堤 一つ目は、私たちは今、本来持っているアンテナが鈍る時代を生きていると自覚することです。スマートフォンがあれば常にどんな情報も得られると思いがちですが、SNS(交流サイト)で流れる情報や大手検索エンジンの結果は簡単に操作できるし、米国ではそうした企業の政府やスポンサーへのそんたくが大問題になっています。それを認識するだけでアンテナが立ち、脳が主体的に動き始めます。
二つ目は、注意を散漫にせず、意図的に行動することです。例えば、買い物をする時に安心・安全な食品に注意を向けると、産地や成分も気になってきますよね。すると、そうした情報が目に飛び込んでくるようになります。意図的に注意を向けなければ、たとえ大事な情報が目の前にあっても通り過ぎてしまうんです。そして……。
── 三つ目も?
堤 三つ目は、意識して今ここに「いること」。実は、これを自然にやっているのが子どもたちです。子どもは転んでわっと泣いても、楽しいことに注意が向くとすぐパッと切り替えているでしょう。でも、だんだん成長して嫌な経験もするようになると、その瞬間に抱いた感情をちゃんと感じないでフタをしてしまうことが増えてきます。そうした未消化な感情は、物事をありのまま受け止めることを妨げて、今この時を生きる力を奪うんですね。私たちは今こそ、意図的に生きるための「集中力」を取り戻さなければなりません。
『ルポ 貧困大国アメリカ』で一躍
リーマン・ショック前の2008年1月に刊行した『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)で一躍、ジャーナリストとして名を上げた堤未果さん。フードスタンプ(食料配給切符)で暮らす貧困層の肥満問題などのほか、軍が大学進学の学費を援助するといいながら貧困層の青年に近づく“裏口”徴兵政策の実態を丹念に追い、中間層が没落して貧困が再生…
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週刊エコノミスト
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