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国際・政治 ロングインタビュー情熱人

パレスチナ問題の根源を問う――岡真理さん

「この10カ月間、ずっと走り続けている感じです」 撮影=浜田健太郎
「この10カ月間、ずっと走り続けている感じです」 撮影=浜田健太郎

早稲田大学文学学術院教授、京都大学名誉教授 岡真理/126

おか・まり 1960年10月東京都生まれ。東京外国語大学大学院修士課程修了。エジプト・カイロ大学留学。府立大阪女子大学人文社会学部講師、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て2023年4月から現職。専門は現代アラブ文学、パレスチナ問題。著書に『アラブ、祈りとしての文学』(みすず書房)、『ガザに地下鉄が走る日』(同)、『ガザとは何か』(大和書房)など。

 昨年から10カ月以上に及ぶガザ地区へのジェノサイド(集団虐殺)とどう向き合うのか。思想としてのパレスチナ問題を研究してきた文学者は身を削るようにして言葉を紡ぎ出し、イスラエルの非道を問いただす。(聞き手=浜田健太郎・編集部)

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── 昨年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルを奇襲した後、イスラエル軍による大量虐殺・大量破壊が10カ月以上続いています。パレスチナ自治区ガザ地区の死者は4万人超と報道されています。アラブ文学者として長くパレスチナ問題に向き合ってきた岡さんにはこの状況はどう映っていますか。

岡 まずマスコミ各社が使う「イスラム組織」という枕ことばが問題です。ハマスとはイスラム主義を掲げるパレスチナの民族解放組織だと理解してください。犠牲者数も報道されている数字をはるかに上回るのは確実でしょう。世界的な医学雑誌『ランセット』は、餓死や病死など間接的な死者を含めれば、死者は7月2日時点で、18万6000人に上る可能性があると伝えています。ガザの人口の7.9%に相当します。人為的な飢餓と組織的な医療システムの破壊のせいです。

── パレスチナではこれまで何度も殺りくが起きています。

岡 攻撃が繰り返されるたびに、殺りくは前回をはるかに上回る規模になっています。昨年のハマスの攻撃以前、それまで16年以上封鎖が続いていたガザでは都合4回、イスラエルによる大規模な軍事攻撃がありました(2008年12月~09年1月は死者1400人超、12年11月に8日間で死者140人、14年7~8月の51日間に死者2200人以上)。00年9月~05年2月の第2次インティファーダ(住民蜂起)の死者は3000人です。それに対し、今回は1カ月で死者1万人です。

 ロシアの侵攻を受けるウクライナの場合、22年2月からの2年間で民間人の死者が1万500人で、ウクライナの方が人口は約20倍と圧倒的に多いですから、ガザではケタ違いの大量殺害が起きているのです。

── 国連の特別報告者は今年3月、イスラエルによるガザでの軍事作戦はパレスチナ人に対するジェノサイド(集団虐殺)に相当するとの見解を示しました。しかし、西側の政治リーダーには届かないように感じます。

岡 イスラエルが16年以上にわたりガザを封鎖し、パレスチナ人が「生きながらの死」と呼ぶ状態に置かれているのを、世界はずっと見捨ててきました。ただ、世界各地のイスラエルに対する抗議デモは、世界を動かしています。国際刑事裁判所(ICC)は今年5月、ネタニヤフ首相に逮捕状を請求しており(編集注:ハマス幹部らを含め計5人)、国際司法裁判所(ICJ)は「パレスチナ占領は国際法違反であり、イスラエル政府にはユダヤ人入植活動を停止する義務があるとの勧告意見」を出しています。

「植民地主義国家」イスラエル

── 岡さんは、パレスチナ紛争を人道問題ではなく政治的な問題だと強調しています。

岡 問題の根源は、イスラエルによる占領やアパルトヘイト(人種・民族隔離)という政治的問題だからです。イスラエルはガザを封鎖し、住民を「今日を食いつなぐのがやっと」という状況に置いています。パレスチナ人に「難民の帰還」や「占領からの解放」「主権を持つパレスチナ国家の独立」といった政治的な主張をさせないようにするためです。

 そもそも、パレスチナの先住民を排除して、そこに欧州のユダヤ人たちが自分たちの国を作る運動を19世紀末に始めました。これをシオニズム運動と呼びます。イスラエルは先住民を民族浄化して建国された、入植者による植民地主義国家です。現代では、植民地支配が不正であることは世界的な合意事項です。

 東京外国語大学とカイロ大学(エジプト)でアラビア語を学んだ岡さん。東京外大大学院修士課程終了後、縁あってモロッコの日本大使館で専門調査員として勤務した後に研究者の道に進む。01年に京都大学総合人間学部助教授となり、アラブ文学とパレスチナ問題の研究に取り組んできた。

── 昨年10月下旬に京都大学と早稲田大学で開かれた緊急セミナー「ガザとは何か」で講演し、事態の深刻さを訴える内容が大きな反響を呼びましたね。

岡 パレスチナ問題に関わる者として、この10カ月間、ずっと走り続けていました。本当は、文学を通して、もっと思想的に、根源的に問題を考えたいのですが、その時間がありません。でも、いま、パレスチナと連帯する東京外大の学生さんたちが、「ガザ・フェイシス」というアート展を企画しています。

 アラブ系フランス人の映画監督らによるプロジェクトで、監督たちは今回の攻撃で殺されたガザの人たち一人ひとりの写真に名前と人物紹介を記したポスターを制作しています。その日本語版のポスター展が10月上旬、東京外大で開催されます。期…

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