マルクス主義への懐疑と批判⑫民主主義国家の政治は国民の支持なしに成り立たず 小宮隆太郎
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職業団体や産業・地域別等さまざまな政治的要求をもつプレッシャー・グループが「多元的政治社会」を構成している。
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こみや・りゅうたろう 1928年京都市生まれ。52年東京大学経済学部卒業。55年東京大学経済学部助教授。64年米スタンフォード大学客員教授。69年東京大学経済学部教授。88年通商産業省通商産業研究所所長。89年青山学院大学教授。東京大学名誉教授、青山学院大学名誉教授。戦後の日本の近代経済学をけん引する一方で、後進指導に尽力し、政財官界に多くの人材を輩出した。2022年10月死去。本稿は本誌1970年11月10日号に寄せた論考の再掲である。
軍国主義あるいは、帝国主義のメカニズムにはいろいろなパターンがあるが、基本的にはごく単純なことのように思われる。人間には弱小者を征服し、支配しようとする本来的な傾向が内在しているように思われる。そのような傾向が他の要素によってコントロールされないと、帝国主義的膨張が発現する。
たとえば、明治の初めに日本に「征韓論」というのがあった。日本の国内が不統一でゴタゴタしているから、何の理由もないのに、弱小と考えられた隣国を征伐して国民の士気を高揚し、国内統一をはかろうというわけである。あるいは、他の強大な国に対抗するためとか、他国に支配されるかもしれないという恐怖心から、自ら侵略に乗り出すというパターンもある。
マルクス主義的な帝国主義論が誤りだとすると、それでは今日、なぜアメリカが強大な軍事力をもち、世界中に基地を維持し、ベトナムはじめ多くの地域で侵略戦争や軍事支配を行なっているのかと問われることが多い。それは要するに、ソ連がやはり強大な軍事力をもち、東欧各国にソ連軍を駐屯させ、ハンガリー動乱やチェコの自由化の際に、ハンガリー人やチェコ人を抑圧、圧殺したのとほぼ同じことであろう。
中ソ対立
しかも軍部は、官僚機構がパーキンソンの法則(組織・運営と人間の心理作用に関する非合理的な行動の分析を説いた法則)にしたがって肥大化する以上に、つねに自由増殖する傾向が強い。アルゼンチンの軍部は非常に大きいそうだが、なぜそんな大きな軍隊が必要かとアルゼンチンの軍人に聞けば、他国の侵略の危険があるからと返事するに違いない。そのような軍国主義的展開の危険性が存在することは、資本主義であると社会主義であるとを問わない。中国とソ連の対立はこのことを端的に示している。
フランスとドイツは過去100年ほどの間に普仏戦争と二つの大戦の三つの大きな戦争を戦った。それらの戦争は、いずれも経済的理由から必然にして、不可避だったのか、今日再び両国が帝国主義化し、軍事的に抗争する必然性があるのだろうかという問題意識である。私にはそうは思われないと論じた。
いまやフランスとドイツの間には、EEC(欧州経済共同体)が形成された。EECは「西洋の没落」の危機意識のもとに台頭した。ヨーロッパ的規模での新しいナショナリズムのあらわれではあるが、ドイツやフランスが再び帝国主義化して、植民地支配や軍事的拡張に乗り出すと考える人があれば、あまりにも19世紀的観念にとらわれた見方である。今日では先進諸国相互間に自由にして多角的な国際経済体制が維持されることが、その経済的繁栄の不可欠な条件である。
このような経済国際主義の体制は、最強の資本主義国であるアメリカの利害に基づいて築かれた、アメリカの世界経済制覇のための体制である、といわれるが、このような体制から大きな利益を受けるのは、貿易依存度(GNP〈国民総生産〉に対する輸出入の比率)が、3~4%にすぎないアメリカよりも、貿易依存度の高いヨーロッパ諸国、日本、一次産品国である。したがって、アメリカ人以上に、多くのヨーロッパ人が戦後国際経済体制の発展に努力し貢献してきた。
また、世…
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