教養・歴史神の「家系図」で読み解く世界三大一神教

②ユダヤ教徒は人類がユダヤ人から始まったと考えている 福富満久

 神ヤーウェが、命を吹き込み誕生させアダムとイブ。ここが人類の起点となり、神がさまざまな試練を課していく。そして、神の愛を受けた者がやがて「信仰の父」の座に就く物語である。

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 旧約聖書巻頭の書である「創世記」には「神は1日目に光を、2日目に空を、3日目に大地と海を、4日目に太陽と月を、5日目に魚(海の生き物)と鳥(空の生き物)を、6日目に動物(陸の生き物)と人間を創った。7日目は休息日にした。こうして神は光や空、海、生き物、そして人間を創った」と記されている。なお、人間の起源は土であり、旧約聖書におけるイスラエル民族の神であるヤーウェは、そこに命を吹き込み男を誕生させ「アダム」と名付けた。

 次にヤーウェはその(アダムの)あばら骨から女の「イブ」を創り出した。男が先にあり、その一本のあばら骨から女を創る、という男尊女卑的な考え方が古代からあったことは興味深い。イスラム教の聖典であるコーランの専売特許ではないのだ。ユダヤ教徒はこのようにアダムとイブ、つまり人類がユダヤ人の中から誕生したと考えているのである。ちなみに、ヘブライ語で「アダマ」は土、転じて「アダム」は人という意味を持つ。また、イブはヘブライ語で「ハヴァ」といい、「生きる者」または「生命」という意味がある。

 聖書(物語)は、ヤーウェが禁じた「知識の実」をイブが蛇にそそのかされて食べてしまい、アダムも同様に食べる有名な一節に続く。神ヤーウェは禁を破った罰としてアダムとイブを二人のために作った楽園「エデンの園」から追放した。

 知識を得たアダムとイブは、限りある生を知ることになり、女は子どもを産む苦しみを、男は一生働かなければならない苦しみを背負うことになる。ここには赤ん坊から成長していく過程が描かれている。なお、蛇は罰として地をはうことしかできなくなった。

エデンの園とノアの箱舟

 こうして永遠の命が終わりを告げた人間は、罪を背負って生きていかなければならなくなったが、幸せもあった。アダムとイブには子どもが生まれたのだ。最初に生まれた子どもが「カイン(Cain)」で、人類最初の子どもであった。

 ところがその後、弟である「アベル」も誕生するが、神への捧げものを巡って、後にカインはアベルを殺してしまう。人類最初の兄弟の争いによる殺人事件となる、この有名な物語は親からの愛情の差による兄弟間の嫉妬を表す、すなわちヤーウェの愛は不平等であるというユダヤ教的意味に解釈される場合がある。また、神ヤーウェはカインを追放して自分の罪に向き合わせることと、私たち人間は皆カインのように弱い存在であり、罪を背負っていることを改めて指し示すとされる。

 なお、キリスト教ではこうした罪は神ヤーウェの御子(みこ)キリストが背負うことによって人間は罪から解放されることとなる。ところで創世記によれば、アダムは930…

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