教養・歴史神の「家系図」で読み解く世界三大一神教

③聖書は「導きの書」であり「呪いの書」でもある 福富満久

 400年の奴隷の後、イスラエルの民はモーゼによって解放され、紀元前12~13世紀ごろ、再び約束の地・パレスチナを目指す。一度は国家を建設するが、「バビロン捕囚」でユダヤ人は「故郷を離れて暮らす者たち」となる。

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 ユダヤ人の民族としての歴史は、約4000年前にアブラハムを族長としてその息子イサク、孫のヤコブ=イスラエルによって始まったとされる。ただしアブラハムは神ヤーウェの指示通りにパレスチナに赴き祭壇を築いたが、エルサレムに城塞が築かれ、イスラエルの聖都になるのはまだ先のことだ。

 アブラハムの墓があるとされるヘブロンは、現在のパレスチナ自治区西岸、エルサレムの約30キロ南にある。2017年に世界遺産に登録されたこの場所は、アブラハムがイスラム教徒にとっても預言者の系譜上の父祖であるため長年イスラム教徒とユダヤ教徒が半分ずつに分けて警備に当たっていた。

 イスラエルはパレスチナの領域にあるにもかかわらずヘブロンに入植を続け、民族対立が激化、1994年には、国連安全保障理事会の勧告を受け、「ヘブロン国際監視団」が送られることになった。ところが、19年1月末にネタニヤフ首相が、「イスラエル政府の意向に背く監視団の駐留は認めない」として監視団が追放されるに至り、今ではイスラエルの支配下に置かれている。

 ユダヤ民族の話に戻そう。メソポタミアで発掘された紀元前2000~1500年ごろの文献にも、当時彼らが聖書に描かれた通りの遊牧生活を送っていたことが裏付けられていると説明される(在東京イスラエル大使館)。

 だが、神にようやく約束された土地で遊牧生活を送っていたにもかかわらず、今度は飢饉(ききん)によって、ヤコブと12人の息子(イスラエル12支族)はその家族とともにエジプトへの避難を余儀なくされてしまう。その後、その子孫は奴隷にされたり強制労働を強いられたりするなど、苦難に遭遇するのであった。

 そのイスラエルの人々の中に男の子が生まれた。その子がモーゼであった。モーゼは、同胞を苦しめるエジプト人を憎み殺人を犯して逃亡した。ある時、モーゼは飼っていた羊の群れを荒野の奥に導いて神の山ホレブを訪れた。すると突然目の前に火が燃え、「わたしは、あなたの先祖の神、アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である」と声がした。

「わたしはイスラエルの民の苦しみを知っている。わたしはエジプトの民が彼らをしいたげるのを見た。わたしは、あなたをつかわして、わたしの民であるイスラエルの人々をエジプトから導き出させよう」と、その声は発せられたのだった。400年の奴隷の後、イ…

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