ラグジュアリーカー×クラシック音楽 BMWがピアニスト・反田恭平氏を ブランド・フレンドに起用した理由-[Economist View]
1916年に誕生したドイツの自動車メーカーBMWは、2022年に気鋭のピアニスト・反田恭平氏をブランド・フレンドに起用。コンサートツアーをサポートし続けた成果は、数あるブランディング施策のなかで近年最高のコンバージョン率となって表れている。アーティストとラグジュアリーブランドが相思相愛の関係をもって構築するブランドの真価とは。
ビー・エム・ダブリュー・ジャパンはピアニスト・反田恭平氏のほか、モデルのUTA氏や俳優の井浦新氏をブランド・フレンドに任命している。同社のブランド・コミュニケーション マネジャーを務める井上朋子氏は、ブランド・フレンドというポジションについてこう説明する。
「ブランド・フレンドは単なる広告塔ではありません。BMWが掲げる『駆けぬける歓び』という価値観に共感し、この言葉を自分らしく変換して表現してくださる方が、私たちの考えるブランド・フレンドです」
反田氏は20代で国内外の著名なコンクールで入賞。2016年にセンセーショナルなデビューを飾って以降、音楽活動に邁進するのみならず、18年にはジャパン・ナショナル・オーケストラを創設し、21年にはオーケストラのための新会社を立ち上げた。音楽的感性と起業家精神を持ち合わせた反田氏はまさに、BMWの考えるブランド・フレンド像を体現する人物だった。
「私たちは2020年頃、新しい価値を自ら開拓しつつ、次世代に何かを残していける“ネクスト・ジェネレーション”を探していました。そこで真っ先に声をかけさせていただいたのが反田さんです。BMWが提供しているテレビ番組(※)への出演を打診したところ、快諾してくださった上、番組出演をきっかけに運転免許証を取得されたんです」
免許を取ってすぐにBMWに乗り始めた反田氏は、時間があればクルマに乗っていたいというほどの熱烈なBMWファンに。
「今は私よりもずっと愛車に詳しいですよ。クルマにはコンピューターのような部分がありますから、そのメカニズムを熟知して乗りこなすのが楽しいようです」
複雑なものに挑んで制覇し、自分らしく楽しむという点において、ピアノ演奏と名車の運転には相通ずるものがあるのかもしれない。一方で、クラシック音楽の世界とラグジュアリーカーも親和性が高いようだ。3歳からピアノを習い、現在も海外のコンクールに出場し、リサイタルも開くという井上氏は、両者の共通点をこう分析する。
「格式が高くて入りにくいと感じがちですが、どちらも非常に奥が深い。一度知れば、もっと知りたい、極めたいという欲望に取り憑かれてしまうところがよく似ています。また、お金はかかりますが、費用以上の価値、満足を得られるという面も共通しているのでは」
両者の相性のよさは、成約におけるコンバージョン率(訪問者のうち成約に至った割合)にも表れている。昨年、BMWは反田氏のコンサートに抽選で600組1200名を招待した。BMWはこうした企画は数々行っているが、昨年実施した企画の中で、このコンサートに応募した人の新車購入率が最も高かったという。
現在、BMWは「FREUDE(フロイデ:ドイツ語で歓び)」という言葉を核に、ラグジュアリーブランドとしてのイメージ強化に取り組んでいる。ベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章は「歓喜の歌」として知られるが、BMWのエンジンが奏でる歓喜の歌も、乗る人すべてに「駆けぬける歓び」をもたらし、魅了するに違いない。
※ 現在放送中のTBSミニ番組『FREUDE,forever −先駆者が見た景色−』(毎週火曜22時57分〜)の前身である『Go NEXT −未来へ駆けぬける−』