非合法移民は1日1万人 バイデン政権を痛撃するも経済は移民労働に依存 井上祐介
共和党の地盤である南部州で非合法移民が急増。大統領選を大きく左右する争点となっている。
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2024年の米国大統領選挙における主要争点は何か。インフレをはじめとする経済情勢と並び、有権者が高い関心を寄せる移民問題が挙げられる。21年1月のバイデン政権の発足以降、メキシコとの国境から米国へ入国する移民が急増しているだけでなく、国境から遠く離れた地域にも危機が伝播(でんぱ)している。多くの国民が状況の悪化と政府の無策に不満を持っており、バイデン大統領の支持率低迷の要因となっている。
バイデン氏の緩和策で殺到
米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査によると、21年の米国における非合法移民は1050万人に上り、人口全体の約3%とされている(図1)。既に米国に存在する多数の非合法移民の取り扱いと新規の受け入れについては長年議論が続いており、しばしば党派対立の火種となってきた。最後に包括的な移民制度改革が実現したのは約40年前のレーガン政権にまでさかのぼる。1986年に移民法が成立し、米国に5年以上滞在している不法移民に対して合法的な立場を認める代わりに新規の流入の食い止めを図った。しかし、その後も移民は増え続け、ブッシュ政権(子)やオバマ政権で改革が試みられたものの、議会の賛成が得られず頓挫した。そして、16年にはトランプ前大統領が米国第一主義や「国境の壁」の建設を主張して支持を拡大し、大統領に就任後は不法に米国内に滞在する移民への取り締まり強化や特定国からの入国制限などを実施した。
バイデン氏は就任直後に国境の壁の建設中止や入国禁止の取り消しを命じたほか、幼少時に親に連れられて入国した人々の在留を認めるなど、より寛容的な移民政策を打ち出した。しかし、こうした政策転換の結果、メキシコ国境に米国入りを目指す人々が殺到した。米税関・国境警備局(CBP)によると、23年度(22年10月~23年9月)に南西部国境付近で拘束された移民は約250万人と過去最多を更新し、23年12月には1日当たり1万人となった(図2)。トランプ政権が導入した「タイトル42」と呼ばれる新型コロナウイルス感染拡大を理由にした移民制限措置が23年5月に失効したことも拍車をかけた。
こうした移民の多くは経済や治安に問題を抱える中南米やカリブ海諸国の出身者だが、ロシア、インド、中国人なども含まれている。非合法移民の大半は国境でCBPに遭遇した段階で難民認定の申請を行う。当局に出身国で人種、宗教、政治的思想などを理由に迫害される可能性が認められた場合、難民認定審査を待つことになり、その間は米国内での滞在が許可され、半年後には就労も可能となる。また、難民認定に対応する人員や予算が圧倒的に不足しているために待機期間は年単位に及び、その間に米国内での生活基盤が確立されていく。制度疲労は明らかだが、こうした法律の抜け穴に着目した越境者が一段と増加している。
これまで米国における移民問題は主にメキシコと国境を接する南部州の問題だった。南部の大半は共和党の地盤であり、民主党の寛容な…
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週刊エコノミスト
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