トランプ保護主義はインフレを再加速させ米市場はトリプル安 木内登英
トランプ氏の再登板は、保護主義や財政出動、「弱いドル」政策を通じ、金融市場の先行き不透明感を強めそうだ。
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今年11月の米大統領選挙でトランプ前大統領が返り咲くことを、金融市場は強く警戒している。これは、日本では「もしトラ(もしトランプが再選されたら…)」とも呼ばれるが、実際にその確率が高まれば、米国金融市場は債券安、株安、ドル安の「トリプル安」となるだろう。さらにその影響は、世界の金融市場にも一気に波及する。
トランプ氏が大統領に再選されれば、米国政府のあらゆる政策は再び「米国第一主義」の色彩を強め、「国際協調路線」が大きく後退するだろう。外交、安全保障政策での「米国第一主義」は、世界の地政学リスクを大きく高める。
トランプ氏は、自身が大統領に再選されれば、ウクライナへの軍事支援を停止すると明言している。それが、ロシアによるウクライナでの占領地域の拡大を助けることになれば、欧州地域の安全保障上のリスクは一段と高まる。またトランプ氏は、イスラエル支持の姿勢が強いキリスト教福音派を強い支持母体としている。そのため、再選されればイスラエルとガザ地区の紛争で、よりイスラエル寄りの姿勢を強めるだろう。それにアラブ諸国が反発すれば、中東地域の紛争はより拡大していく。
こうした地政学リスクの高まりは、金融市場のリスク回避傾向を強め、株式市場に強い逆風となる。
関税10%で物価1.2%上昇
金融市場により大きな影響を与えるのは、第2期トランプ政権の経済政策、いわゆる「トランプノミクス2.0」である。
第1期トランプ政権では、産業界やウォール街は、トランプ氏の産業寄り(pro industry)の政策姿勢に期待も抱いていた。
トランプ政権の経済政策の中でも特に彼らに期待されたのは、大型減税策だった。トランプ政権は公約通りに、米連邦法人税率を35%から21%に引き下げることを柱とする大型減税策を、2017年12月に成立させた。
しかし、税制改革が完了すると、18年にトランプ氏は保護主義な貿易政策に次々と着手していった。トランプ氏の経済政策の本質は、保護主義である。
トランプ氏は、今回は追加減税策を公約に強く掲げていない。第2期トランプ政権では、減税というウォール街、産業界の追い風となる経済政策は実施されずに、逆風となる保護主義的な貿易政策だけが推進されるのである。
トランプ氏は選挙公約で、全ての輸入品に一律10%の関税をかけることを提案している。仮にこれが実施されると、関税分の輸入品(財)価格上昇が国内製品に完全に転嫁されるとの仮定のもとで、国内需要デフレーターを1.2%上昇させる計算となる。そうした政策は、物価の安定回復の流れに水を差し、債券安(金利上昇)を促す可能性がある。そして、個人消費にも逆風となるだろう。
さらにトランプ氏は、中国からの…
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週刊エコノミスト
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