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週刊エコノミスト Online 学者が斬る・視点争点

東北地方で急低下する合計出生率 松浦司

 1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計出生率は「西高東低」だ。背景には労働環境などさまざまな要因がある。

20~24歳女性の域外転出が引き金に

 日本の合計(特殊)出生率(15~49歳までの女性が一生の間に産む子どもの見込み数)は、2005年に1.26で底を打ち、15年までは緩やかに回復してきた。しかしながら、15年以降は出生率が再び低下し始めて、コロナショック以降はさらに深刻化した。その結果、厚生労働省「人口動態統計」が示すように、22年の出生数は77万人、23年の出生数は75万8631人(速報値)とさらに低下して、過去最低となった。岸田文雄内閣は、「異次元の少子化対策」として、少子化問題を主要な課題と位置付けている。

 一方、地域間格差や東京一極集中も日本の大きな課題の一つである。この問題に関しては元総務相の増田寛也氏が中心となって、日本創成会議・人口現象問題検討分科会の議論を基にした『地方消滅』が14年に中公新書から出版されて大きな話題を呼んだ。安倍政権は「地方創生」という政策に力を入れ、地方創生に向け政府一体となって取り組むため、14年に「まち・ひと・しごと創生法」を制定した。

東北地方で0.15ポイント低下

 このように、少子化問題と地方創生は日本が直面している二つの大きな政策課題である。実は、地方創生や東京一極集中、また少子化問題という二つの課題は相互に密接に関係している。図1では、13年から22年の都道府県別合計出生率の変化を示したものである。この間に合計出生率が0.15ポイント以上低下した地域の多くは東北地方である。出生率の高い沖縄県とは異なり、東北地方はそれ以前から合計出生率が低かったにもかかわらず、10年代後半に出生率を大きく低下させた。この結果、合計出生率は西日本が高く、東日本が低いという「西高東低」の傾向がさらに強まった。

 また、人口の移動に関しても、地方圏の若年女性の転出が目立つ。特に10年代の東北地方では顕著であった。総務省は24年1月には23年の「住民基本台帳人口移動報告」を公表した。図2は東日本地域(北海道、東北地方、新潟県)の15~44歳女性の地域間人口移動の結果である。11年は東日本大震災による大幅な転出超過であったが、それ以降も12年から19年にかけて、北海道、東北地方、新潟県では転出超過の傾向が強まっている。20年と21年はコロナショックによって、これらの地域の転出超過は相対的に収まっているが、22年からは再び転出超過の傾向がみられた。

 年齢別にみると、若年女性の転出超過のなかで、20~24歳が大きな割合を占めており、15~19歳と20~24歳で人口移動の大部分を説明できることが分かる。15~19歳の転出超過は10年以降大きな変化はみられず、むしろ10年から19年にかけて転出超過の減少さえみられる。このため、20~24歳女性の転出超過が12年以降強まったことで10年代のこれらの地域の転出超過の大部分を説明できる。言い換えると、15~19歳時点の高校卒業時点での大都市への進学や就職による転出傾向が弱くなった一方で、20~24歳女性が大学や短大の卒業後にUターンで戻らなくなったことや、卒業後に他の地域へ就職のために転出する傾向が強まったことを示唆している。

 東北地方以外でも、人口移動は地域の重要な関心事項である。例えば、…

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