観察と考察を旨とする著者が東京の高級住宅地でコロナ禍の30カ月間にカワセミ観察を続けて生まれた一冊 藤原秀行
有料記事
『カワセミ都市トーキョー』
著者 柳瀬博一さん(作家、東京工業大学教授)
美しいコバルトブルーの羽で知られる野鳥のカワセミ。清流で暮らす印象が強いが、実は近年、東京都心の高級住宅街を流れる人工的な河川で目撃されているという。本書はその事実から人や鳥が暮らしやすい環境を考察した斬新な都市論だ。
著者は専門誌の記者や編集者を経て東京工業大学で教授を務めている。多岐にわたるテーマで多くの著作を出版。首都圏を走る環状道路沿線で戦後日本を象徴する文化がはぐくまれた過程を追った2020年の『国道16号線 「日本」を創った道』(新潮社)はベストセラーに。著作に共通する徹底した観察と入念な考察が本書でも存分に発揮されている。
「時代の流れや流行に関係なく、その都度面白いと思ったことを長く追い掛けています。例えば国道16号線の存在を最初に面白いと感じたのは1980年代でした。定点観測を続けてきた結果、37年くらいかけてようやく世に出せたんです(笑)」
著者が都心で初めてカワセミに出会ったのは、新型コロナウイルス禍2年目の21年春、自宅近くを流れる河川だった。
「コロナ禍で家の近場を散歩するというささやかな遊びを見つけ、その日も自転車で出かけていて偶然見かけました。その宝石のような美しさに一目ぼれしました」
そこから2年半に及ぶカワセミウオッチングが始まった。コンクリートで囲われた川の水抜き穴をうまく使って巣を作り、えさを採り子育てするたくましい姿を探し続けた。
「自分の足でフィールドワークをしてディテールを追わないと物事の本質が見えません。本書もそうした調査の結果、人工都市・東京に残る地形がカワセミにとって過ごしやすいものだったことが分かりました」
カワセミが高級住宅街に集まる背景として、水が湧いて緑が生い茂り、時の権力者が守ってきた「小流域源流」が宅地として残った結果、カワセミを呼び寄せたと推察。…
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週刊エコノミスト
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