教養・歴史著者に聞く

愛ではなく「親切」こそが世界を生きやすくするケアの倫理になる 北條一浩

『親切で世界を救えるか』

著者 堀越英美さん(文筆家)

 ここ数年、「ケア」の概念についてさまざまに議論されるようになり、書名にケアが付く本の刊行も増えている。ケア(care)には、お世話、お手入れ、配慮、介護、心配など文脈に応じてさまざまな訳語が適用されるが、「親切」という言葉で語ろうとしたのが本書である。

「私はもともとケアが苦手で、コンプレックスがありました。飲み会の席などで具合の悪い人がいても、サッと介抱に動くことができず、ぼーっとしてしまう人間で……」

 そんな堀越さんがケアをめぐって書こうと思いたった背景には、娘さんの存在があった。

「娘が『鬼滅の刃』が大好きで、映画化された時、誘われて一緒に映画館に行きました。感動して、2人ともボロ泣きでした。映画のあと漫画も読みましたが、やはりとてもすばらしい。私は少年漫画で感動した記憶がほとんどなくて、何が違うんだろうと考えたときに、ふと、最近注目されているケアの倫理と関係があるのでは? と思ったんです」

『鬼滅の刃』から始まった関心は、多くの小説やアニメ、映画へと広がり、それら個々の作品の中に息づいているケアの倫理を読み解く試みに発展していく。それらを1冊にまとめたのが本書だ。

「一昔前の少年主人公というと、やんちゃな『悪い子』が主流で、優等生は嫌われものでした。ところが『鬼滅の刃』では、他者をケアする優等生キャラが子どもたちの人気を集めているようです。しかし、私は前著『不道徳お母さん講座』で検証したのですが、歴史をさかのぼると『赤胴鈴之助』にしても『猿飛佐助』にしてもとても良い子なんです。『悪い子』が人気を集める時代のほうが、特殊だったのかもしれません」

 とはいえ単純な先祖返りではない。『猿飛佐助』なら主君への忠誠、『赤胴鈴之助』には親孝行という大義があったのに対し、『鬼滅の刃』は弱い者みんなに優しい。そこが非常に今日的で、ケアの倫…

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週刊エコノミスト

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