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出生数「75万人」は織り込み済みでも、年金「逆進性」解消が急務 中嶋邦夫
厚生労働省が2月27日に発表した人口動態統計の速報値では、2023年の出生数が過去最少の75万8631人となった。公的年金制度の持続性にも懸念を抱く向きもあるが、実は今回の「75万人ショック」は国が定期的に示している年金財政の見通しに織り込まれている。
例えば、厚労省が19年に公表した年金の将来見通し(財政検証)では、23年の出生数について「低位」(出生率が低い仮定)の場合は73.3万人と推定していた。ただ、織り込み済みとはいえ、年金の持続性が担保されているわけではない。少子化傾向が続く限り、受給額の目減りは続く。
現在の仕組みでは、現役世代や企業が負担する保険料の引き上げが17年に終了した代わりに、年金財政が健全化するまで年金額の目減りが続く。例えば、24年度の年金額は前年度と比べて2.7%の増額改定となるが物価や賃金の伸びから現役世代の減少率や高齢化の伸展率が差し引かれており、実質的には0.4%の目減りになる。これが「マクロ経済スライド」だ。
公的年金には、国民に共通する基礎年金(1階部分)と、会社を退職した人が受け取る厚生年金(2階部分)がある。厚労省が19年に示した出生低位ケースでの見通しでは、財政を健全にするためには基礎年金を50年度まで削減し続ける必要がある。厚生年金の削減は28年度には終わる。
前述したマクロ経済スライドはデフレ下では機能せず、世間の賃金が下がっても基礎年金は高止まりしたため、長期の削減が必要になった。収入が低い会社員ほど受給額のうち基礎年金の割合が高いため、収入が低い会社員への目減り割合が高収入の会社員より上回る「逆進性」が生じる。こうした年金格差の解消が課題となる。
財源の配分見直し
例えば、出生低位ケースでは平均賃金の1.5倍の水準(年収約790万円)をもらっている単身会社員は最終的に15%の目減りとなるのに対し、平均賃金(年収約527万円)の場合は18%減、平均賃金の半分(年収約263万円)の場合は22%減──と、所得が低いほど打撃を受ける(冒頭の図参照)。
格差の解決のため、政府は基礎年金と厚生年金への財源の配分方法を見直し、両者の目減りの終了時期を一致させる案(いわゆる「調整期間の一致」)を示しており、25年の制度改正を目指している。これが実現すれば、自営業か会社員かという働き方や、現役時代の給与水準に関係なく、同世代内では年金の目減り度合いが同じになる。
基礎年金受給者といっても、最近は自営業者だけでなく、パートやアルバイトなど非正規雇用の割合が増えている。所得の再分配や社会のセーフティーネットの拡充のため、年金の逆進性の解消が急務だ。
だが、世代内の目減りに有利・不利の問題がなくなるとしても、年金財政が健全化するまで年金額の目減りは続く。実際にはどの程度の目減りになるのか。今夏の財政検証で具体的な見通しが示される予定だ。
(中嶋邦夫・ニッセイ基礎研究所上席研究員)
週刊エコノミスト2024年3月19・26日合併号掲載
出生数「75万人ショック」 目減りが続く年金受給額 「逆進性」解消も急務に 中嶋邦夫