データが示す「教職は不人気」のウソ 北條雅一
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近年、教員採用試験の倍率が低下している。理由は教職が不人気だからか。データを詳細に見ると決してそうでないことが分かる。
教員採用試験の新卒受験者数に大きな変化はなかった
教員採用試験の低倍率化に歯止めがかからない。
東京都教育委員会は、2023年度に実施した教員採用選考(24年度採用)において、小学校の採用倍率(受験者数÷採用者数)が過去最低の1.1倍となったと発表した。小中高、特別支援学校を合わせた全体の採用倍率も1.6倍で、初めて2倍を切った。文部科学省の調査によれば、全国の倍率は小学校が過去最低の2.3倍、中学校も過去最低とほぼ同水準の4.3倍となっている。
教員採用試験の倍率低下は、若者の間で教職が不人気化していることを反映しているのだろうか。その答えは、データを丹念に確認すると見えてくる。
採用倍率は「受験者数÷採用者数」で算出されるので、採用倍率の低下は、①受験者数(分子)の減少、②採用者数(分母)の増加、によって発生するが、データを見ると、近年の倍率低下は①と②が同時に起きることで発生しており、中でも②の影響が大きいことがわかる。
文部科学省の調査によれば、小学校の採用倍率が過去最高の12.5倍となった00年度の受験者数は全国で4万6156人、採用者数は3683人であった。他方、23年度の受験者数は3万8952人、採用者数は1万7034人。採用者数が4倍以上に増加する一方で、受験者数の減少は15%ほどにとどまっており、採用倍率の低下は②採用者数の増加が大きく影響していることが分かる。そして、受験者数は確かに減少しているものの、この間の若年人口の減少(20代人口は約33%減)を踏まえれば、教職が忌避されるほど不人気化しているとはいえない。
余談だが、採用倍率が過去最高を記録した00年度は就職氷河期の真っただ中である。当時は民間企業だけでなく教職も極めて狭き門だったのだ。
退職者増のピークは越えた
では、採用倍率の低下はこれからも続くのだろうか。
近年、新規採用者数が増加傾向で推移してきた背景の一つとして、過去に大量採用された世代の退職時期に重なったことが挙げられる。退職者数のピークは小学校が16年、中学校が22年であった。つまり近年、一斉に定年を迎えた退職者を補充するために、各教育委員会は採用者数を増やしてきたのである。また、児童生徒の多様化への対応や指導の充実のために採用を増やしてきたことも、一つの要因として挙げられよう。
ただ、退職者数はすでにピークを過ぎていることから、今後は小中学校ともに退職者数が減少に転じ、それにともなって新規採用も抑制されることが予測されている(図1)。新規採用の抑制は、採用倍率を押し上げる。つまり、ここ数年が採用倍率の「底」であり、今後は採用倍率が上昇に転じる可能性が高い。
とはいえ、新規採用の抑制によって採用倍率が上昇に転じるためには、受験者数がある程度維持される、という条件が満たされなければならない。若者の間で教職の不人気化が進行しているのであれば、今後も受験者数の減少に歯止めがかからないかもしれない。
実はこの点も、データを丹念に見ることでおおよその答えが見えてくる。
教員採用試験の受験者は、新規学卒者と既卒者で構成される。図2は、それぞれの受験者数の推移を示したものである。新規学卒者・既卒者を合計した受験者数は、13年度をピークとして減少を続けているが、新規学卒の受験者数は小学校でほぼ横ばい、中学校でやや減少程度で推移している。他方、既卒の受験者数は大きく減少し、小学校では、23年度にはピーク時から…
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週刊エコノミスト
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