教養・歴史書評

19世紀末の中国庶民生活を当時の“B級雑誌”を素材に活写 加藤徹

 歴史は立体的だ。大所高所から見渡す大局的な目線と、庶民の草の根的な目線の、両方が必要だ。

 相田洋『中国生活(くらし)図譜 清末の絵入雑誌 『点石斎画報』 で読む庶民の“くらし”』(集広舎、4180円)は、清末の通俗的な絵入り雑誌『点石斎画報』の挿絵と記事をもとに、旧社会の諸相をよみがえらせる。

『点石斎画報』は伝説の世相風俗雑誌である。1884年から98年まで、上海で毎月刊行された。記事の内容は、日清戦争などの時事ものもあるが、西洋の新技術や外国人の奇怪な習俗についての風聞、町の奇怪なうわさ、幽霊や妖怪の怪談など、世紀末感とB級感に満ちている。

 著者はこの雑誌をもとに『中国妖怪・鬼神図譜』と『中国生業(なりわい)図譜』を著し、読書界で大きな反響を得た。今回のシリーズ最新刊では、庶民の衣食住と家庭の生活を浮き彫りにする。当時の常識は、現代人から見ると奇妙で、ゾクゾクする。

 例えば「纏足(てんそく)」は、女性の足を人為的に幼少時のサイズのままにするという旧社会の風習だ。著者はまず、纏足の歴史とその実態、当時の女性の足の骨の形やファッショナブルな纏足靴などを、図版を使って、客観的に叙述する。次に『点石斎画報』の纏足関係の怪しい記事をいくつか紹介する。「火事で、背負われて逃げる纏足の女」は、纏足女性は走れない、というステレオタイプを描くが、著者は、現存する映像史料では纏足女性たちはきびきび…

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