中国EVは進化が止まらない――航続距離・価格・充電インフラ 湯進
中国でもEVの伸びは鈍化しているが、性能・価格・インフラの進化は止まっていない。早晩、成長軌道に復帰しそうだ。
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2024年3月4日、中国電気自動車(EV)大手のBYDは、スポーツタイプ多目的車(SUV)のEV「元PLUS(日本名:ATTO3)」の24年モデル「栄耀版」を発売した。BYD製リン酸鉄リチウムイオン電池「ブレード電池」を搭載し、航続距離510キロを実現した一方、インテリジェント音声システム、自動駐車や車両死角検知などの運転支援システムも備えている。驚いたのは、販売価格が11.98万~14.98万元(約240万~300万円)となり、同クラスの日本車トップであるトヨタ自動車のエンジン車「ワイルドランダー」より、約2万元(約40万円)安くなっていることだ。電池価格を含むコストでEVがエンジン車と競える価格水準となり、BYDが掲げたキャッチコピー「電比油低(電動車がエンジン車より安い)」はいよいよ現実味を帯びている。
十数社が新エネ車値下げ
中国では春節明けの2月19日から、BYDが「栄耀版」のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)計9モデルを相次いで発売し、24年に早くも値下げ競争の口火を切った。これに追随し、長安汽車、吉利汽車、北京現代汽車など十数社の自動車メーカーが相次いで新エネルギー車(NEV)の値下げに踏み切った。足元の中国の景気減速により内需回復が鈍く、新車市場で熾烈(しれつ)な価格競争が繰り広げられている。一方、電動化の加速により、エンジン車の市場が縮小の一途をたどっており、更にここまでのNEVの価格破壊から、エンジン車を中心とする外資系自動車メーカーは厳しい状況に陥る可能性がある。
23年の中国の乗用車出荷台数は、輸出の好調を受け、史上最高の2606万台を記録した。そのうち、1404万台という国内エンジン車販売台数は、17年比で約1000万台も少ない。またNEVの出荷台数は依然として好調が続いており、コロナ禍前(19年)の120.6万台から23年の949.5万台に急速に伸びており、新車市場に占めるNEVの割合が31.6%に上昇した。
一方、欧米ではEVシフトの過熱感が一服し、米アップルのEV事業の中止や米国大統領選の行方などに加え、EV市場の行方は不透明になりつつある。中国でも補助金政策が終了したことを受け、EV市場の成長鈍化の兆しが見えている。EVの販売台数の伸び率は、直近3年間で平均97%増であったのに対し、24年1~2月には11.7%増と大幅に低下している。世界に先駆けて急速な電動化シフトが起こる中国では、EVの減速は一時的なものなのか、その実態を探ってみたい。
現在、中国の都市部では優遇政策により、車両の購入段階での対エンジン車のコストパフォーマンス(費用対効果)がNEVの差別化要素となっている。車両価格の10%に相当する車両購入税の免除では、エンジン車向けが23年末に終了したことに対し、NEV向けは25年末までに延長することになった。エンジン車に対し、ナンバープレートの発給規制、走行可能なエリアの制限を実施している都市で、NEVの特需が依然存在している。こうした都市におけるNEV販売台数は23年に中国全体の48%を占めている。
また車載電池の品質向上により中国製EVの性能も着実に向上しており、中国では電池、部材、資源など川上までさかのぼるEVのサプライチェーンが形成されている。地場電池各社は生産能力を拡大する一方、新型電池の開発にも力をいれ、コストダウンと安全性の両立にも取り組んでいる。CATLは23年により高密度にバッテリーを搭載できる「CTP(セルtoパック)」技術を用いた「麒麟電池」(を投入し、航続距離1000キロを実現する一方、マイナス20度の低温環境で電池容量の90%を利用できるナトリウムイオン電池も出荷し始めた。BYDの「ブレード電池」は700キロ超の航続距離で、航続距離が短いというリン酸鉄の常識を覆すようなパフォーマンスを実現した。また、因湃電池科技(広汽集団傘下)の「P58微晶超能電池」、高級EVブランドのZEEKR(吉利控股集団傘下)の「金磚電池」など自動車メーカーも電池生産に参入した。
電池価格も下落
一方、24年3月時点、正極材の主要原料である炭酸リチウムの価格は、22年末につけた最高値に比べ約85%下落し、ニッケルや電解液はいずれも前年比5割程度の値下げとなった。加えて電池各社が生産能力の拡張を進めたことで、多くの電池メーカーが値下げに乗り出した。市場の主力製品であるリン酸鉄リチウムイオン電池の価格は、1年前比約6割下落した。電池がEVコスト全体の約3割を占めているなかで、電池相場の下落は中国製EVのコストダウンにもつながる。
充電インフラの整備や充電時間の短縮も中国EV市場の拡大に欠かせない条件である。公共充電スタンドや個人専用の充電スタンドに加えて、中国における充電スタンドの累計設置台数は24年2月末に902.3万台となり、世界最大規模だ。一方、公共充電スタンドは主に沿海部に集中し、地域・都市別のインフラ整備の格差も存在している。またEVの普通充電は6時間以上かかり、既存の急速充電を利用しても約1時間必要だ。エンジン車の給油時間並みに充電の時間短縮を実現できれば、今後のEV潜在ユーザーにとって非常に魅力的な存在となる。
24年4月より日本のチャデモと中国電力企業連合会が共同開発した次世代急速充電規格、「ChaoJi(チャオジ)…
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週刊エコノミスト
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