経済・企業

アップルカー“リタイア” アップル成長神話に黄信号 岩田太郎

完全自動運転機能を備えたEV開発は、故スティーブ・ジョブズ氏の念願だったが……(2006年2月撮影、共同通信)
完全自動運転機能を備えたEV開発は、故スティーブ・ジョブズ氏の念願だったが……(2006年2月撮影、共同通信)

 アップルの株価がさえない。2月には、自動運転機能があるEV開発に挫折したと報じられた。米ハイテクの雄に何が起こっているのか。

>>特集「EV失速の真相」はこちら

 米IT大手のアップルが、自動運転を組み込んだ電気自動車(EV)である「アップルカー」(通称)の開発を断念したと2月下旬に報じられた。アップルからの正式発表はないものの、開発チームの一部は他社との競合に後れを取る生成AI(人工知能)部門に配置転換されるという。

 その一方で、アップルはiPhoneなど同社デバイスのブラウザ「サファリ」の既定検索エンジンを提供しているグーグルと組み、グーグルの生成AIサービスをiPhoneに搭載する交渉を進めているとされる。

 今回の方針転換は、アップルの自動車開発プロジェクトが挫折したというだけにとどまらない。①業界全体に漂う自動運転開発の挫折と停滞、②EVブームの足踏み、そして③IT各社の生成AIサービス事業の再編の予兆──という三つの大きなトレンドを象徴するものといえそうだ。

名ばかり完全自動運転

 完全自動運転である「レベル5」の実現を目指したアップルカーは、共同創業者の故スティーブ・ジョブズ氏のアイデアから生まれた。そして、自動運転は当初からEVと切り離せないものだった。

 ジョブズ氏の「遺業」として2014年から年間およそ10億ドル(約1500億円)の開発費を投じて20年に完成した試作EVは、正式には公開されていないが、全面ガラスの屋根やスライドドアを備えた食パン型の丸みを帯びたミニバンで、4人が快適に座れるように設計されていたという。

 ハンドルもペダルもない完全自動運転車ではあったものの、実際の試験では渋滞時の高速道路走行中など限定された領域でのみ運転操作をシステムに任せることが可能な「レベル3」の実力しか備えていなかった。アップルがクルマの開発に関して素人集団だったことに加え、「どんなクルマを作りたいか」という明確なビジョンが欠如していたとされる。開発期間中にEV米大手テスラの買収や、日本や韓国の自動車メーカーとの提携を模索するなど計画が頻繁に変更され、迷走が止まらなかった。

 加えて、自動運転自体への信頼が揺らいでいる米国の事情も逆風となった。

 米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)傘下の自動運転車部門クルーズは、先行するグーグル傘下の同業ウェイモを猛追しているが、クルーズの自動運転タクシー(ロボタクシー)の実証実験中にたびたび救急車両の走行を妨げたり、公道の真ん中で突然停止して交通をストップさせたりするなどの問題が続発した。23年10月にはサンフランシスコ市で人身事故を起こし、2月には同市中華街で、ロボタクシーに悪感情を持つ群衆によって1台が破壊された問題も起きた。

 自動運転が技術として完成しておらず、実用のレベルに達するまでに相当の時間を要するとの認識が広まる中、アップルカーもまた、開発を続行する価値が小さいと判断された模様だ。

「1台10万ドル」重しに

 追い打ちをかけるように米国では、23年後半からEV販売が失速している。自動運転の実用性と同様に、「ガソ…

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週刊エコノミスト

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