新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

経済・企業 エコノミストリポート

日本版ライドシェア解禁のインパクト 中村吉明

規制緩和を受けて自治体が運行主体となるライドシェアの導入を表明した石川県小松市長(右端)ら(東京都千代田区霞が関で2月22日)
規制緩和を受けて自治体が運行主体となるライドシェアの導入を表明した石川県小松市長(右端)ら(東京都千代田区霞が関で2月22日)

 過去10年ほどの間、海外で「ライドシェア」の車に乗った人も少なくないだろう。ついに4月、日本でもサービスが始まった。

4月から「白タク行為」が条件付きで合法に

 政府は4月、「ライドシェア」を解禁した。一般のドライバーが一定の条件の下で、自家用車に他人を乗せて報酬を得ることを可能にする新制度だ。従来は「白タク行為」として道路運送法で禁止していた。もっとも、10年以上前から普及する諸外国とは異なり、どんな人でも全国のどこでもライドシェアを始めていいのではない。その内容、これまでの経緯、問題点、今後の方向性について述べる。

 新制度の概要から始めよう。創設を決めたのは岸田文雄首相を議長とし、デジタル技術を活用した規制緩和などを議論する「デジタル行財政改革会議」だ。同会議が昨年12月に決定した「デジタル行財政改革中間とりまとめ」にはこんな文言が載る。

「タクシー事業者が運送主体となり、地域の自家用車・ドライバーを活用し、(スマートフォンの)アプリによる配車とタクシー運賃の収受が可能な運送サービスを2024年4月から提供する」

 道路運送法78条は自家用車を有償運送に使ってはならないと定める一方、「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき」(同条3号)などは例外的に認める。中間とりまとめによれば、この規定に基づいて新制度を創設した。

 これを受けて交通政策審議会(国土交通相の諮問機関)の自動車部会が具体的な制度設計を進めた。新制度に関係する「公共の福祉のためやむを得ない場合」とは、タクシーが不足する地域、時期、時間帯のことだ。国土交通省によると、法人タクシーの乗務員は06年の約38万人から22年の約21万人へと45%も減少した。特に19~22年は約5万人減と拍車がかかった。一方、国内需要はコロナ禍を経て戻りつつあり、訪日外国人客は急回復している。その結果がタクシー不足の顕在化である。

海外とは異なる制度

 国交省は3月13日、タクシー配車アプリのデータなどに基づいて算出した不足状況を公表した。それによると、タクシーが不足する地域と不足台数は、東京都の23区と武蔵野、三鷹両市(5690台)▽神奈川県の横浜、川崎、横須賀各市など(1420台)▽愛知県の名古屋、瀬戸、日進各市など(280台)▽京都府の京都、宇治、長岡京各市など(890台)──の4地域だという(不足台数はタクシーが不足する曜日・時間帯ごとに算出した台数の合計)。4月以降、第1弾として解禁される地域となるだろう。

 スマホのアプリを使って運賃を乗車前に決定し、客がキャッシュレス決済手段で支払う点は海外のライドシェアと同じだが、運行主体をタクシー会社に限定し、運賃がタクシーと同額という点は日本独自であり、“日本版ライドシェア”というべきだ(表1の①)。海外のライドシェアを知る人や、タクシー不足が深刻な地域の人には不満が残るに違いない。

 では、海外のライドシェアはどんな仕組みなのか。発祥は10年にスマホアプリでハイヤーを呼べる事業を米サンフランシスコで始めた米ウーバー・テクノロジーズだ。スマホで簡単に車を呼べる利便性が評価され、ニューヨーク市や首都ワシントンなどに拡大し、米リフトなどの競合他社も出現した(表2)。ウーバーは12年、一般のドライバーが運転する自家用車を呼べる「ウーバーX」という新サービスを始めた。それまでのハイヤーより運賃が安く、たちまち主流のサービスとなった。

 ライドシェアのドライバーとして登録したい人は自動車保険を契約し、車の整備状況を良好に保つことなどが条件となるが、タクシー事業者は介在しない。その後、ライドシェアは欧州、東南アジア、中国などにも広がった。シンガポールに本社があるライドシェア事業者「グラブ」の市場シェアが高い東南アジアでは、タクシー運転手がメーターを使わない、そもそも装備していないといった問題があり、運賃が不当に高くなることもあった。乗車前に運賃が確定するライドシェアは安心できるとして普及した。

安全と技術革新

 ライドシェア事業者は規制当局の許可を得ずに営業を始めるケースが多く、各地であつれきが生じたが、結果的に現在まで営業が続いている地域が多い。例えば、ウーバーの発祥地、米カリフォルニア州公益事業委員会は13年、「公衆の安全を守りつつイノベーション(技術革新)を促進するため」として、同社が自動車保険やドライバーの犯罪歴を確認することなどを条件に合法化した。

 一方、日本では一般的にタクシーは…

残り1572文字(全文3472文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)が、今なら2ヶ月0円

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事