貨幣経済とサブプライム問題の本質 効率性と不安定性を併せ持つ貨幣 時に暴走して混乱に陥れる 岩井克人(2008年9月9日)
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「リーマン・ショック」(2008年9月15日)の少し前、週刊エコノミストの特集「危機の経済学」で岩井克人・東京大学経済学部教授(当時)は「貨幣経済とサブプライム問題の本質」で、サブプライム問題の危うさ、貨幣が本質的に持つ不安定さについて述べていた。その後まもなく、世界経済はリーマン・ショックという大きな信用収縮と混乱に襲われた。岩井氏の指摘を改めて振り返る。
貨幣経済とサブプライム問題の本質 効率性と不安定性を併せ持つ貨幣 時に暴走して混乱に陥れる(特集「危機の経済学」)
市場経済には貨幣が不可欠だが、それは本質的に市場を不安定化させる。サブプライム問題にはその特徴が表れている。
市場メカニズムを重視するいわゆる新古典派経済学は、一種のイデオロギーとして1980年代に、主に米国のレーガン政権、英国のサッチャー政権などの自由主義的な経済政策の理論的な裏付けとなった。現在のブッシュ政権の政策は、それを極限まで推し進めたもので、世界全体を1つの市場経済にした。そして、まさにそのことが、市場経済には本質的な限界があることを、いろいろな面で明かし始めている。環境問題もそうだが、米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題もその1つだ。
新古典派経済学の理論では忘れられている大きな問題がある。それは「貨幣」だ。市場経済についてよく考えてみれば、あらゆる取引は貨幣を媒介にして成立していることが明らかだ。例えば、私たちがリンゴの市場と言っているものは、実はリンゴと貨幣を交換する市場のことで、ナシの市場というのは、ナシと貨幣を交換する市場のことである。もちろん物々交換の市場もありうるが、現実的には困難だ。
貨幣は誰もが欲しがるから、貨幣を持ってさえいれば、リンゴでもナシでも手に入る。すなわち貨幣があることによって、市場経済が成り立つのだが、経済学者はそれを忘れがちだ。貨幣の存在が…
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週刊エコノミスト
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