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教養・歴史 神の「家系図」で読み解く世界三大一神教

⑤世界宗教のキリスト教 民族宗教のユダヤ教 福富満久

 選ばれた者のみを対象にしたユダヤ教に対し、信仰する者は皆救われるとする終末思想とセットにしたキリスト教──。

>>連載「神の「家系図」で読み解く世界三大一神教」はこちら

 キリスト教はユダヤ教を母体として生まれた宗教である。その教徒はユダヤ教徒と同じ文書を聖典として受け入れ、ユダヤ教のいう唯一絶対的な存在である神に感謝をささげる。ところが、そのキリスト教徒が信じる「新約聖書」には、イエスこそがメシア=すなわち救世主であり、同時に神だと記されている。ヤーウェこそが絶対的な神だとするユダヤ教徒にとっては、衝撃的なメッセージである。

 キリスト教とは、ユダヤ教徒にとってみれば逸脱した教えである。イエスを神と信じる者たちが、ユダヤ人の民族としての歴史や誇りを許可なく利用して勝手に広めたものだ。ユダヤ教では「旧約聖書」のみが「聖書」であり、「新約」など存在しない。より強い表現でいえば、この世に存在してはならないものである。こうした理由から両者は、成立直後から激しく対立してきた。

父のいないイエス

 では、キリスト教徒側からのイエスという救世主の誕生を見てみよう。

 神イエスの十二使徒の一人であるマタイによる福音書(キリスト教の聖典で、イエスの言行録)によると、イエスの誕生は次のようであった。イエス・キリストの母マリアは、ダヴィデの子孫ヨセフと婚約していたが、2人が一緒になる前に、聖霊によって身ごもっていることが明らかになった。ヨセフはひそかに縁を切ろうとしたが、主(キリスト教ではヤーウェとはいわず主(しゅ)となる)の天使が夢に現れて言った。「マリアの子は聖霊によって宿ったのだ。恐れず妻マリアを迎え入れよ。そしてその子をイエスと名付けなさい。この子は自分の民を罪から救う(メシア=救世主となる)からである。」(マタイ書1.21)。これが有名な受胎告知の場面である。

 このためキリストの母は誰もが知る「聖母マリア」だが、キリストには父はいない。ヨセフは実父ではなく「イエスの養父」と表現されている。旧約聖書には、救い主がダヴィデの子孫から生まれるということが預言されているため、キリスト教はそこに含みを持たせたのだった。

 ところで、神はイエスの母にマリアを選んだが、マリアはどのような人物であったのだろうか。これに関しては、辺境に住む身分の低い者であったこと以外に聖書には説明はない。これは、イエスが父なる主で崇高な存在であるが、一方で彼がどこにでもいる人間から生まれたことで、私たちの身近な存在でもある、ということを教えるための巧みな戦略でもあるのだ。

狙われるイエスの命

 ところがその後、赤子のイエスは当時の統治者であるヘロデ王に命を狙われることになった。ヘロデ王はイスラエル人ではなくエドム人であった。エドム人とは、アブラハムの息子イサクの子どもで、ヤコブの兄であるエサウの子孫にあたる。旧約聖書上、ユダヤの王となる正統性がなかったため、ローマ帝国から統治権を認めてもらい、王としてユダヤの土地を治めていたのであった。

 そのため、「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので拝みに来たのです」(マタイ書2.2)と言いつつ、実はイエスを探し出して殺そうとしていたのだった(同2.13)。養父ヨセフは主の天使によってそのことを知ると、エジプトに…

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