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インタビュー「世界で一番環境がいい大学を選ぶ」植松久恵・広尾学園中学校高校教頭

 広尾学園高校(東京都港区)の今年3月卒業生のうち、延べ200人が海外の大学に合格した(5月15日現在)。それだけ多いのは、なぜか。(聞き手/構成=谷道健太・編集部)

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 海外大学の合格者が多い要因は二つある。一つ目は学校として生徒に「海外大ヘの進学を選択肢に入れるといい」と積極的に伝えていること。二つ目は、海外で教育を受けた帰国生徒をメインに受け入れる入学枠があり、その生徒たちの一部が海外大を第一志望としていることだ。

 広尾学園中学校には「本科」「医進サイエンス」「インターナショナル」の3コースがあり、インターナショナルはさらに国語と社会科の一部を除くほとんどの教科を英語で教える主に帰国生徒向けの「アドバンストグループ(AG)」と、4教科の入試を経て入学する生徒向けの「スタンダードグループ(SG)」に分かれる。両グループの生徒は同じクラスに所属する仕組みで、担任教員は日本人と外国人の2人。英語力を問われずに入学したSGの生徒も、朝一番の朝礼から外国人教員やAGの生徒が話す英語を多く聞くことになる。

 SGの生徒は高校では3コースのいずれかに進む。高校のインターナショナルにはSGを設けず、授業のほとんどを英語で教える。例えば、社会科のうち日本史は日本語で教え、世界史は英語で教えている。また、世界史や化学など科目別に大学レベルの内容を高校で教える「アドバンストプレースメント(AP)」という授業を設けている。AP試験で高い得点を取って米国の大学に進学すると、単位として認定されるので学費の節約になる。日本の高校卒業者が英国の大学に進学すると、1年間の準備コースに入る必要があるが、AP試験を何科目か合格していると準備コースに入らずに済む。

 そこで3年間過ごしたSG出身の生徒たちはかなりランクの高い海外大に合格している。海外大に合格する生徒数はAG出身の生徒のほうが多いが、SG出身の生徒は中学入試を経験し、試験対策の勉強を鍛えられていることがランクの高い大学に受かっている一因と考えている。

外国人教員も担任を受け持つ

 日本の教員免許を持たない外国人が学校教育法上の小中高校で教えるには都道府県教育委員会に「特別非常勤講師」の届け出をするか、「特別免許」を取得する必要がある。当校ではクラス担任になってもらいたい外国人教員には特別免許の取得が可能になるようサポートしている(文部科学省の資料によると、特別免許とは「担当する教科の専門的な知識経験または技能」を持つなどの要件に合致し、都道府県教委の教育職員検定に合格した人に授与する教諭の免許状)。外国人教員は現在、25人おり原則として日本語を使わずに授業している。

 英語で教える授業では、出版社の許可を得て当校で英訳した日本の教科書を使用している。つまり、当校は学習指導要領に基づく日本のカリキュラムを英語で教えている。保護者のほとんどは日本人だ。子どもの大学進学を考える際、海外と日本のいずれの大学も選択肢に入るようにしている。

 インターナショナルを開設したのは2007年度。ほとんどの教科を英語で教えているのに生徒に一番合う大学を示せているのか、進路指導をしっかりできているのかと考え、13年度から海外大の情報をインターナショナルスクール並みに生徒に伝え始めた。進学実績の結果が出始めたのは17年度だ。

広尾学園の廊下に掲示してあった米国の大学別の奨学金額を示す地図
広尾学園の廊下に掲示してあった米国の大学別の奨学金額を示す地図

 円安が進む今、海外大進学にかかる費用はかなりの金額になる。米国の場合、学費と寮費を合わせて年1000万円を超す。大学から奨学金をどのぐらい得られるかは合格が決まった後にならないと分からない。ただ学費が高い分、施設が整っている大学はあり、そのような情報を得た生徒たちは「円安だから挑戦しない」とはならない。国内にも柳井正財団や笹川平和財団など海外留学者に年1000万円超の奨学金を出す財団がある。それらの奨学金を得られる生徒は限られており、基本的には大学からの奨学金を狙うことになる。複数の大学に合格した場合、生徒が大学に宛てて「別の大学からこれだけの奨学金を約束されている」とメールを出し、奨学金の給付や増額を交渉することもある。

 自分が本当に何をしたいかをよく考え、学びたい専攻を選び、世界中の大学から一番環境がいい大学を選ぶ。海外大を受験する生徒は「自分で選択した」と実感すると思う。

(植松久恵、広尾学園中学校・高校教頭)


週刊エコノミスト2024年6月4日号掲載

学校激変 インタビュー 植松久恵 広尾学園中学校・高校教頭 生徒が何をしたいかをよく考え 世界で一番環境がいい…

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