労働と読書の関係の深さを解説 「全身全霊で仕事」からの脱却訴え 藤原秀行
有料記事
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
集英社新書 1100円
著者 三宅香帆さん(文芸評論家)
秀逸なタイトルを見て「同感!」と思った人が多いのではないだろうか。本書は同じ問題に直面した文芸評論家が明治時代から現代までの労働史と読書史を追い、集英社のウェブで日本人の読書観が変化した過程を紹介した人気連載に加筆した稀有(けう)な新書だ。
著者自身、小さい頃から本が好きで大学も文学部に進学した本漬けの毎日だった。しかし、大手IT企業に勤め始めてから生活は一変した。
「週5日、毎日9時半から20時過ぎまで会社にいることはとてもハードでした。ずっと仕事のことを考えているとなかなか本が読めなくなってしまい、ショックを受けました」
仕事自体は面白かったが、結局3年半ほどで退職。それまでにも続けていた書評などの活動をメインにして本格的に活動する道を選んだ。
「イベントやSNSなどで、どうやって読書の時間を作っていますか、という質問をよくいただきました。これだけ多くの人が悩んでいるということは、個人ではなく時代や社会に起因する問題なんじゃないかと思い始めたのが考察の出発点です」
さらに踏み込んで、この問題を世に問おうと思った契機は、2021年公開の恋愛映画「花束みたいな恋をした」だったという。
「まさに働いていて本が読めなくなる主人公が登場するんです。映画を見た人からそんな主人公に共感する声がすごく集まっていたんですが、そこに焦点を当てた批評はあまりなかったので、自分で語ろうと思いました」
歴史をたどると労働と読書には密接な関係があったことがよく分かる。例えば、人気作家・司馬遼太郎の作品が文庫本でブームとなったのは意外にも発表から10年ほど経過した1970年代で、高度経済成長が続いていた60年代へのノスタルジーとしてサラリーマンの長い通勤時間の間に読まれていたという。
本書は00年代以降、広く普…
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週刊エコノミスト
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