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問われるトヨタのガバナンス 株主総会で豊田会長の選任賛成率が72%に 河村靖史

トヨタ自動車の株主総会会場へ向かう株主ら(共同通信)
トヨタ自動車の株主総会会場へ向かう株主ら(共同通信)

 認証試験に関する不正の発覚を機に、豊田章男会長が支配するトヨタ自動車のガバナンスを問題視する見方が広がっている。これまで新車販売の伸びで業績が好調に推移し、株価も上昇してきたことなどから株主からの不満も抑えられてきたが、グループ企業に続くトヨタ本体での不正発覚で潮目が大きく変わった。

 愛知県豊田市の本社で6月18日に開かれたトヨタの定時株主総会では、議長を務めた佐藤恒治社長が「お客さまや株主の皆さまにご心配、ご迷惑をおかけしたことを心よりおわび申し上げます」と陳謝した。

 トヨタの認証試験での不正は、ダイハツ工業やトヨタ向けのディーゼルエンジンを受託生産している豊田自動織機が認証試験で不正していたことが発覚したのを受けて、国土交通省が自動車メーカーや部品メーカーに対して型式認証について適正に実施しているか、過去10年分を調査するように指示したことで発覚した。5月末の段階で、トヨタのほか、ホンダ、マツダなど5社が一部車種で、法令で決まっている本来の試験方法と異なるプロセスで試験していたと報告した。

 不正発覚で特にトヨタは強い批判を浴びている。それはグループ企業で相次いで不正が発覚した際、豊田会長が「グループ全体の問題として、私が主担当として(再発防止に)取り組む」と述べたにもかかわらず、自身の社長時代にトヨタ本体が不正していたからというだけではない。トヨタは記者会見で「より厳しい条件で試験した」と強調し、豊田会長は厳しい条件でテストしたことが不正になる型式指定制度に問題があるとの見方を示したからだ。

 国交省によると、トヨタが主張する「より厳しい条件」が必ずしも「厳しいとは言えない内容」であることや、日本の型式指定制度は国連基準に沿ったもので、日本独自のものではないという。また、謝罪会見でありながら豊田会長が時折、半笑いで質問に回答するなど「口では私の責任と言いながら、悪いと思っている経営者の態度ではない」との意見も少なくない。

 トヨタの2023年度決算は日本の上場企業で初めて営業利益5兆円を突破するなど、業績は好調だ。それでも株主総会ではトヨタの企業統治を懸念する声が相次いだ。「モータースポーツが会長の道楽になっているのでは」と豊田会長を直接批判する株主もいた。

助言会社は「反対」

 株主総会前には、米国の議決権行使助言会社2社が認証不正の責任があるとして豊田会長の取締役再任に反対を推奨。米カリフォルニア州職員退職年金基金は豊田会長を含む7人の取締役の選任に反対した。結果、豊田会長の賛成率は前回の84.57%から大きく下がって71.93%だった。

 好調な業績に支えられ、株主総会は乗り切ったトヨタだが、グループ企業を含めた不正発覚でガバナンスに課題を抱えているのは明らか。トヨタに立ち入り検査に入った国交省が、是正命令などの行政処分をする可能性もある。トヨタが失った信頼を回復するためのハードルは低くない。

(河村靖史・ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2024年7月9日号掲載

FOCUS トヨタ株主総会 問われる豊田章男会長の支配 態度に不信、選任への賛成率72%に=河村靖史

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