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教養・歴史 歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話

⑬歯列矯正の怖い本当の話 林裕之

 リスクを事前に知らされず、安易に始めた治療がとんでもない悲劇を引き起こすことがある。

>>連載〈歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話〉はこちら

 歯をテーマにした情報番組は録画してチェックしています。いいかげんな情報もありますが、勉強になる情報もあります。歯並びをテーマにしたバラエティー番組が4月に放送されました。上顎(うわあご)の前歯が重なって生えているお笑い芸人Aさんの歯並びを変える方法などが紹介されましたが、いいかげんな内容の典型でした。

 特に審美歯科評論家の肩書で出演していた歯科医のコメントにあきれ、腹が立ちました。自身の歯科医院の最新機器での歯列矯正のシミュレーション画像を示し、歯並びを変えることは「簡単にできる」と言います。まず、これが危険です。歯を移動することのリスクが全く考慮されていません。知らないとしたら歯科医失格です。

 林歯科には、歯列矯正で歯並びを変えたために奥歯が噛(か)み合わない、口が開かない、虫歯や歯周病、顎(がく)関節症、頭痛、肩こり、不眠、パニックなどさまざまな弊害に苦しむ患者さんが多く来院されています。歯列矯正リスクを知らなかった悲劇です。歯並びはある日突然乱れるわけではありません。たとえ乱れた歯並びでもそれに調和した噛み合わせで咀嚼(そしゃく)(顎運動)しているのです。

 乳歯は5歳ころから永久歯に生え替わり始め、第二大臼歯の歯根が完成する15歳くらいで永久歯列は完成します。この期間は心身ともに大きく変化する成長期です。歯並びは心身の他の器官と連携して成長する各人固有の身体的特徴です。

コンプレックス商法

 お笑い芸人のAさんは40歳といっていましたので、35年間Aさん固有の歯並びで生活してきたのです。番組のシミュレーションでは矯正には2~3年かかると言っていました。かなり長期間だと思われるでしょうが、5歳からの35年に比べれば短期間です。歯列矯正で歯を移動させると、上下の歯の接触関係が変わります。この噛み合わせの急変に歯、舌、顎関節などと協調した咀嚼システム(顎運動)がついていけず、口が開かない、噛めないといった症状が表れ、やがて全身に影響するのです。

 もちろん歯列矯正した全員に同様のことが起こるわけではありません。しかし、矯正前にこうしたリスクがあることは知らされるべきです。そのうえで慎重に取り組むべきなのに安易に「簡単にできる」とはあきれるばかりです。揚げ句の果てに歯並びが乱れているのは「かっこ悪い」とまで言ったのです。

「かっこ悪い」は医学用語ではありません。例え乱れていても歯並びは各人固有の身体的特徴であり、そこに美醜はありません。「かっこ悪い」とおとしめるのは歯科医によるデンタルハラスメントです。コンプレックスをあおってもうけるコンプレックス商法です。

 歯列矯正をしてつらい症状に苦しんだ患者さんは異口同音にこう言い…

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