⑫歯磨き粉は必要なのか? 林裕之
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不可欠だと思われているが、その効能は江戸時代に見抜かれていた。
>>連載〈歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話〉はこちら
前号で歯周病対策は歯を守るだけでなく、生活習慣病やアルツハイマー型認知症の発症予防のひとつであることを解説しました。私もすでに7本の歯を失っていますので、残りの歯を守るための歯周病対策に本腰を入れることにしました。
今まで歯周病専門医に診てもらったことがないので、歯周病専門医がいる歯科医院を検索し、通いやすいことを条件に某歯科医院に予約しました。初診では簡単な問診票に記入後、診察となりました。口全体のレントゲンを撮り、残っている全ての歯の歯周ポケットの深さを記録します。この時点で、所々深いところもあるが、歯周病としては軽度と告げられました。
次に歯磨きが正しくできているかを判定するために歯垢(しこう)を赤く染める液体で口を漱(すす)ぎます。歯と歯茎の境目付近を中心に赤く染まっていました。それを取り除くための歯ブラシと歯間ブラシの使い方を教わります。私の状態に合うという歯ブラシを300円で購入し、手鏡を見ながら歯ブラシの毛先を細かく振動させるようにすると、赤い歯垢が落ちて歯の表面が見えてきます。歯と歯の間は歯間ブラシで落とします。
どちらも歯磨き粉は使いません。残っている21本の歯をきれいにするには相応の時間を要します。また、普段の歯ブラシの使い方のクセで磨き残しやすい箇所も特定できました。初回はここまで、次回までセルフケアに励むことを言い渡され終了です。以後1日に1回は10分ほどかけて磨いています。
平賀源内の名言
歯周病専門医の歯磨き指導では、歯磨き粉は使いませんでした。同じ経験をお持ちの方も多いと思います。しかし、さまざまな効能を謳(うた)う歯磨き粉は次から次へと販売され、盛んに宣伝もされます。歯磨き粉は必要なのでしょうか?
江戸時代中期の著名な蘭学者で発明家でもある平賀源内は、元祖コピーライターとも評されています。売り上げの落ちる夏場にウナギを食べさせるために作った「本日土用の丑(うし)の日」は現代でも夏の風習として根付いているから感心します。
その平賀源内が当時の歯磨き粉「漱石香(そうせきこう)」の引き札(チラシ)用につくった冒頭部分は皮肉が利いています。
「きくかきかぬかの程、私は夢中にて一向存じ申さず」──。つまり、歯磨き粉は「効能があるかどうかはわからないけれど、害にはならない」と、実態を逆手に取って宣伝しているのです。
現代の歯磨き粉も、本当に効果があるなら虫歯も歯周病も絶滅しているはずですが、江戸時代の「漱石香」と代わり映えしないようにも思えます。
この漱石香のコピーには続きがあります。いわく「売り手には利益がある」。隠れた本質を突いています。
歯磨き粉について歯周病の専門医に聞いたところ、お茶やコーヒー、赤ワインなど…
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週刊エコノミスト
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