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教養・歴史 歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話

⑪歯周病菌とアルツハイマー型認知症 林裕之

 現在の生活習慣の定義から抜け落ちている「口腔ケア習慣」を加えて、周知徹底する必要があると警鐘を鳴らす。

>>連載〈歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話〉はこちら

 アルツハイマー型認知症は、脳神経細胞の周りにアミロイドベータたんぱく(Aβ)、脳神経細胞の中にタウたんぱくがたまり脳機能に障害を生じて起こるとされています。

 なぜ、Aβやタウたんぱくがたまってしまうのかは解明されていませんが、歯周病の原因菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス菌(Pg菌)の成分がアルツハイマー型認知症患者の脳内に検出され、歯周病によるアルツハイマー型認知症への関与が注目されました。そこで、九州大学の研究グループはマウスの全身にヒトのPg菌を3週間連続投与する実験を行いました。

 その結果、マウスの肝臓でAβが作られていることを突き止めました。これまでAβは脳内で産生、蓄積すると考えられてきましたが、歯周病の原因菌であるPg菌が脳外でAβの原材料になりうると示されたのです。マウスの実験ですが、ヒトの体内でも起こっていると考えられるとも言及しています。

 また、若いマウスでは少なく中年のマウスに多いことも判明しています。アルツハイマー型認知症の原因は一つではありませんが、Aβが蓄積し始めて20~30年後に発症するといわれています。口腔(こうくう)内からPg菌を排除するためのケアは歯だけでなく、脳のためにも欠かせません。

「生活習慣」の再定義を

 アルツハイマー型認知症との関連が示唆されたPg菌が、自分の口腔内に生息しているのが気になります。実施できる歯科医院は限られますが、Pg菌の量を検出する検査があります。「オルコア」と呼ばれる自費の検査(5500円~)です。

 コロナウイルスの感染判定で用いられたPCR(ウイルスの遺伝子)検査と同じ方法で口腔内のPg菌の有無と量を測定します。歯磨きやうがい薬の使用から3時間ほど経過後、歯に付着している歯垢(しこう)を少量取るだけなので痛みなどはありません。45分ほどで結果が出ます。

 私の結果は(今のところ)Pg菌は検出されませんでした。この検査を受けることで、歯磨きやプロケアの効果を数値として把握できます。歯周病ケアの指標となるだけでなくAβ産生予防の一助となります。

 厚生労働省は、生活習慣病(がん、心臓病、脳卒中、糖尿病など)は「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義しています。そして、生活習慣病は認知症発症に深く関わっています。

 歯周病菌は生活習慣病、アルツハイマー型認知症どちらにも関与しています(本誌8月6号の本連載9回)。口腔ケアのための生活習慣である「歯磨き、プロケア、歯ぎしり・噛(か)み締め対策」は重要なのに、現在の生活習慣の定義から抜け落ちています。生活習慣に口腔ケア習慣を加えて再定義し、周…

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週刊エコノミスト

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