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インタビュー「マンション廃墟化を解体費確保で防ぐ」戎正晴・今後のマンション政策のあり方に関する検討会委員

 管理不全などが問題となる中、マンション政策は今後、どう展開していくのか。国土交通省の「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」委員でマンション管理に詳しい戎正晴弁護士に聞いた。(聞き手=桐山友一/荒木涼子/村田晋一郎・編集部)

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── 国土交通省の「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」が昨年8月、とりまとめを発表し、解体費用を確保する手法のあり方について検討を行う、と盛り込んだ。その狙いは?

■滋賀県野洲市で2020年、廃虚化した分譲マンションを、空き家対策特別措置法に基づいて公費解体した影響が大きい。マンションは本来、区分所有者が最後には解体までの責任を果たさなければならないが、解体どころか修繕積立金の積み立てすら厳しく、更地にして売却しても解体費用も賄えない可能性のあるマンションが増えている。こうしたマンションの相続では相続放棄も相次いでいて、管理をさらに難しくしている。

 こうした事態に直面し、とりまとめでは通常の長期修繕計画だけでなく、マンションの寿命を見据えた超長期の修繕計画のあり方を検討するとも盛り込んだが、これは解体費も含めて計画を作ってほしいという意味を込めている。国交省ではこれから解体費の調査も進めていくと聞いている。そうした方向性は今後、後退することはないだろう。

── 解体費の確保には具体的にはどんな手法が考えられるか。

■積み立て方式や保険方式などこれから幅広く検討していくが、解体されずに廃虚化するリスクを分担する考え方も必要なのではないか。例えば、新築マンションでは開発業者に解体費の一部を負担してもらい、区分所有者が長期にわたって積み立てながら、最後には行政も補助金を出して解体する方法も考えられる。ただ、既存のマンションはなかなか難しい。解体費を積み立てられず建物が傷んでしまえば、市場ではもはや売れなくなってしまう。

管理「認定」は義務化も

── 地方自治体がマンションの管理状況を審査する「管理計画認定制度」が22年4月に始まったが、全国で認定されたマンションは今年6月末時点で903件と低調だ。

■現在は認定申請は任意の制度だが、いずれ義務化されるのではないか。マンションの管理組合の側に認定されるメリットが少ないとか、認定基準を満たさないから申請しないという状況になっているが、そもそもは管理不全のマンションをあぶり出して自治体が把握し、必要な政策を打っていく狙いがある。私の実感では管理不全予備軍のマンションは4割ぐらいはあるのではないか。

── とりまとめではタワーマンション特有の課題にも踏み込んだ。

■タワマンのような大規模なマンションは強固なコンクリートで作られていて、解体は物理的に難しい。戸数が多いうえに外国人など多様な人が住み、合意形成も簡単ではない。一度に多数の住民が住み始めるため、学校の整備など地域のインフラにも負荷をかける。そのため、検討会ではタワマンの適正な管理について固有の検討をしており、修繕積立金のあり方など管理のガイドラインを厳しくしていく考え方が出ている。

 マンションの所有者には三つの責任がある。一つ目は区分所有者としてマンションを維持するコストを負担する「費用負担責任」、二つ目は周囲の市民に損害を与えた場合には賠償する「工作物責任」、そして三つ目は地域に廃虚を残さないという「公に対する責任」だ。この三つの責任を果たせるように今、取り組まなければ、全国が廃虚マンションだらけになりかねない。

(戎正晴・弁護士、国土交通省「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」委員)


週刊エコノミスト2024年7月16・23日合併号掲載

マンション管理&空き家 インタビュー マンションの行く末 戎正晴 「廃虚化させないためにこれからは解体費も確保へ」

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