05年刊『黒字亡国』(三国陽夫著) 日本が陥った経常黒字の罠 編集部
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黒字は善、赤字は悪──民間企業の経営における概念が、国際収支統計では通用しない。
国際収支統計とは、対外的な取引を体系的に記録した経済指標。中でも重要な項目が、海外とのモノやサービス、配当・利子の受け渡しなど経済取引全般の状況を示す経常収支だ。経常黒字の定着や増額が、国内のデフレ傾向を強める要因になったと論じたのが、三国陽夫著『黒字亡国』(文春新書)である。
2023年の経常収支は21.3兆円の黒字。81年以来、赤字になったことはない。だが、90年代とはその中身は大きく変化している。安い原材料を海外から輸入し、高付加価値の品目を輸出する貿易立国から海外に工場を建設したり、企業をM&A(企業の合併・買収)して稼ぐ投資立国へと様変わりしているのだ。
00年代半ばまでは経常黒字の大半は貿易黒字だった。ところが、11年以降、対外直接投資や証券投資から上がる第1次所得収支黒字が中心になっている。
05年12月に出版された『黒字亡国』は00年代半ばまでの日本の経常黒字を分析。まだ、貿易黒字が経常黒字の大半を占めた時代だ。三国氏はなぜ、経常黒字を問題視したのか。議論をシンプルにするために対米貿易黒字で解説する。
日本の自動車メーカーA社が米国に輸出。A社は輸出代金をドルで受け取る。人件費や原材料費を支払うためにA社が邦銀にドルを円に交換してもらう。ドルを受け取った邦銀が円に替えると円高…
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週刊エコノミスト
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