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世界進出する中国の自動車部品サプライヤー アルミホイール市場に見る中国企業の事業戦略 湯進
中国サプライヤーが世界市場で競争力を高めている。中国車のプレゼンス向上のほか、技術革新による生産性の向上が背景にある。日系メーカーはどう対応すべきか。
AI使った製造技術で競争力も向上
米自動車専門誌『オートモーティブニュース』が2024年6月に発表した「世界自動車部品サプライヤートップ100」では、中国企業15社がランクインし、 新型コロナ前の19年比で8社増えた。車載電池最大手の寧徳時代新能源(CATL)の売上高は23年に日本のデンソーを超え、世界サプライヤーランキングの第4位に躍進した。米自動車用安全部品のKSSやエアバッグのタカタを買収した寧波均勝電子(Ningbo Joyson Electronics)、サンルーフを手掛けるオランダのイナルファを買収した北京海納川汽車部件、米自動車内装のジョンソン・コントロールズを買収した延鋒国際(Yanfeng International)など、買収戦略により欧米向け販路拡大を果たした中国勢3社が上位にランクイン。なかでもアルミホイール世界最大手の中信ダイカスタル (Citic Dicastal)はその規模で中国第5位、世界のサプライヤーランキングで第49位になっている。
かつては、中国の自動車部品サプライヤーは、素材・設備・基盤加工技術などの分野で十分な技術蓄積を実現できず、中国市場の厳しい取引条件もあり、質と量で日米欧サプライヤーへのキャッチアップは容易ではなかった。しかし、電気自動車(EV)シフトの波は中国の完成車および部品業界の成長を後押ししており、すでに強い競争力を持つ中国サプライヤーが登場している。こうしたメーカーは自国のサプライチェーンの競争力を生かして、グローバル展開に踏み切っている。本稿では、中国のアルミホイール市場で生じた変化と、サプライヤーの事業戦略を事例に、日本勢に警鐘を鳴らしたい。
ホイールで世界シェア6割
乗用車向けアルミホイールの世界需要は24年に約2.2億本に達し、そのうち、中国市場(装着率約90%)と海外市場(同約75%)はそれぞれ計9720万本、1億2000万本が車に装着される見込みだ。アルミホイールの年間生産能力をみると、最大手の中信ダイカスタル(年8200万本)をはじめ、万豊奥特(同2000万本)、今飛凱達(同1800万本)、立中集団(同2100万本)の中国大手4社の生産能力は1億4100万本となり、世界需要の約6割に相当する規模だ。
中国新車市場では、熾烈(しれつ)な価格競争が繰り広げられているなか、自動車メーカーの収益が悪化している。業界の営業利益率は17年の7.8%から24年1~5月の5.3%へと大幅に低下した。自動車メーカーがサプライヤーに対し毎年約5~10%の値下げを要請することは業界の慣例となっている。アルミホイールメーカーは工場稼働率を維持するため、自動車メーカーが求める安い調達価格で納品せざるを得ない。
にもかかわらず、大手は赤字経営にならない。その理由は三つある。
一つ目は「薄利多売戦略」で利益を確保することだ。中国では、自動車メーカーは同じ品質と機能を有する製品を供給できることを前提としてサプライヤーを3~4社程度まで絞っていく。メーカー間で価格に差がある場合、価格差5%の刻みで、調達シェアに10%以上の差をつけるのは一般的だ。製品の技術力と価格によって、調達量の70~80%をサプライヤー1社に集中する可能性がある。
コストパフォーマンス(費用対効果)を重視する調達量配分の仕方が部品調達システムの主流となっているなか、サプライヤーは自動車メーカーに低い価格を提示する。販売価格を下げても受注数さえ増加させれば粗利益を確保できるためだ。また生産量を維持できれば、工業生産高や税金・雇用など、地方政府が定めた目標を達成しやすくなり、地方政府からの補助金や税金還付で収益減少分を一部埋めることも可能だ。さらに、一部のサプライヤーは同業の国内中堅メーカーに低価格で生産を外注し、全体のコストダウンも図っている。
「先進工場」の4割が中国に
二つ目は生産性の向上だ。中国政府が「中国智造」を推進するなか、地場メーカーはビッグデータやAIなど最新のテクノロジーを生かし、サプライチェーンを含めた製造技術の向上に取り組んでいる。世界経済フォーラム(WEF:Wo…
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週刊エコノミスト
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