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出生率低下は将来の単身世帯を増やす 松浦司

 出生率の低下は将来の単身世帯の増加にもつながる。高齢単身者は経済的に困窮しやすく、予防策が必要だ。

単身高齢者の貧困防止へ制度設計を

 2020年の新型コロナのパンデミック以降、少子化が加速している。前回も指摘したように、50歳時未婚率も上昇し続けており、未婚率の上昇が出生率低下の大きな要因の一つである。さらに、特に男性の50歳時未婚率に関しては地域差もあり、東北地方で高いことも観察されている。この結果、東北地方での出生率の低下が近年顕著になり、東北地方の西高東低の傾向がより一層明確化した。出生率の低下は高齢化率の上昇の決定要因でもある。その結果、図1が示すように、50年には高齢化率が上昇するだけでなく、地域的にも大きな差が生じることが予想されている。高齢化率が45%以上となることが予想されている四つの県のうち、三つの県が青森県、岩手県、秋田県と東北地方である。

 このように、未婚率は出生率の低下を通じて、高齢化率を上昇させる要因であるが、それと同時に単身世帯率を上昇させる要因でもある。

20年で単身世帯は3倍弱

 その結果、高齢者の単身世帯化が進展することも予想される。22年の「国民生活基礎調査」によると、全国の世帯総数5431万世帯のうち単独世帯が32.9%と最も多くの割合を占めている。また、65歳以上の者のいる世帯は2747万世帯であるが、そのうち単独世帯が31.8%の873万世帯と夫婦のみの世帯の32.1%とほぼ同様である。01年には65歳以上の単独世帯は318万世帯であったので、約20年間で3倍近くになったといえる。

 高齢者の単身世帯化に関しては、高齢者がプライバシーを確保しつつ、自立的に生活できることが可能になったためという面も存在する。海外の研究でも米社会学者のエリック・クリネンベルクがこのような面を強調しており、日本でも上野千鶴子氏も「おひとりさま」の老後に関して、多数の著作を執筆している。筆者が法政大学の馬欣欣教授と行った研究でも、高齢者のデータを用いて、単身世帯であることが幸福度に影響するかを日中のデータを用いて検証した。その結果、日本の高齢者男性は単身世帯であるのとそうでない世帯に比べて有意に幸福度を低下させるが、日本の高齢者女性は逆に有意に幸福度を上昇させることが示された。ただし、日本の高齢者女性の幸福度に関してはばらつきが大きく、非常に不幸と回答する人も多かった点は注意する必要がある。

 このように、高齢者の単身世帯化はポジティブな面も存在するが、高齢者の単身世帯化は貧困にもつながりやすいという面もある。生活保護に関しては、総受給世帯数が約204万世帯であるが、そのうち半分強が高齢世帯である。さらに、高齢世帯の生活保護受給世帯は増加傾向にあり、22年には91万世帯となっている。また、高齢者の生活保護受給世帯のうち90%以上が単身世帯である。

 また、高齢単身世帯の多くは貧困ラインを下回るとする研究も存在する。橘木俊詔氏と浦川邦夫氏の共同研究によれば、高齢者の単身世帯で4世帯のうち1世帯は、可処分所得が最低生活保障水準未満であるとする。これらの結果から、高齢者の単身世帯化が進むと貧困に直面する高齢者の上昇につながる可能性がある。

 さらに、高齢化率や高齢者の単身世帯率にも地域差があるのと同様に、高齢者の生活保護率にも地域差が存在する。22年3月の全国生活保護率は1.63%であり、都道府県別でみると大阪府の3.05%を筆頭に、北海道、沖縄県、高知県、福岡県が続く。逆に低い県としては富山県の0.4%を筆頭に、長野県、福井県、岐阜県、石川県が…

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