米国は不況ではない、「株下落」は騒ぎ過ぎ 藻谷俊介
8月に入った途端に内外の市場が大荒れとなり、エコノミストとしてもその真価が試される情勢になっている。ただ経済統計の定点観測を旨とする筆者には、正直なところ不況が近づいているとの認識がなく、市場がここまで慌てる理由が理解できない。
ことの発端は8月1日、米国の7月のISM製造業景況指数が雇用判断を中心に悪化し、翌日には失業率統計が悪化したことで、債券利回りと株価が急落して不況色を強めたことである。確かにアメリカの経済論壇の一般的な特性として失業率が重視されるのは、日本とは大きく異なる点である。
しかし、失業率一つの数字だけ過度に重視するのは、あまりに表面的でリスキーな分析態度である。特に失業率が率であり、分母(労働力人口≒働きたいと思っている人)が増えることでも悪化することが一顧だにされていない。
図1はそれを示したものだ。労働力人口のうち現在職に就いている人が就業者数である。労働力人口と就業者数の差が失業者数となる。アメリカにおける失業者の定義は仕事に就きたいと思っていて、4週間以上職探しをしているが、職に就けていない人を指す。公的な職探しである必要はなく、自己申告でよい。また失業保険の受給の有無は関係ない。
グラフが示すように、労働力人口は変動する。一般に景気が良くなって自分も働いてみようと考える人が増えれば上昇する。移民が増える場合もある。今のようにその勢いが就業者数より速け…
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週刊エコノミスト
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