大部の『拝謁記』のブックガイドで象徴天皇制を考える 井上寿一
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田島道治著『昭和天皇拝謁(はいえつ)記 初代宮内庁長官田島道治の記録』全7巻(岩波書店、各3300円、第6巻のみ3520円)が日本近現代史における第一級の史料であることはいうまでもない。ここには臨場感とともに昭和天皇の肉声が記されている。
史料的な価値の重要性は分かっていても、大部の記録である。読むのに躊躇(ちゅうちょ)する。そこで、古川隆久ほか著『「昭和天皇拝謁記」を読む 象徴天皇制への道』(岩波書店、2860円)を手にする。本書は『拝謁記』発見者と編集メンバーによる信頼度の高いブックガイドである。『拝謁記』は日本の近現代史と戦後の象徴天皇制の形成過程を考える際の重要な手掛かりとなっている。
この観点から議論になりうる論点の一つが昭和天皇の戦争観である。本書の評価は厳しい。「天皇の戦争認識とは、端的にいえば自身の責任を棚上げにした責任転嫁にほかなりません」。確かに『拝謁記』は昭和天皇の弁明の書の趣がある。
他方で、帝国憲法の設計者たちは、この時を予期したかのように、あらかじめ天皇大権を定めながらも天皇の無答責性を組み込んでいた。天皇が意思決定の前面に出るとなれば、帝国憲法は機能不全に陥る。事実、天皇が戦争指導に関わらなくてはならないほど、帝国憲法の下での政治体制は崩壊に向かっていた。
敗戦後、天皇は「大正デモクラシー」状況下の立憲君主に戻ろうとする。しかし、日本国憲法下では無理…
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週刊エコノミスト
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