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FOMCの大幅利下げ決定で米国の金融政策は先行き不透明に 鈴木敏之

FOMCで0.5%の大幅利下げを決定したパウエルFRB議長(Bloomberg)
FOMCで0.5%の大幅利下げを決定したパウエルFRB議長(Bloomberg)

 9月18日、米国の金融政策決定を担う米連邦公開市場委員会(FOMC)は、0.5%の大幅利下げを決定した。さらに、2026年央まで利下げを進めて、そこで金融政策を中立に戻すという金融緩和の先々の道筋も示した。この決定は、不退転でインフレ沈静を図るとしてきたインフレ目標達成最優先の戦略目標を、雇用情勢悪化回避を戦略目標とするパラダイムシフトの様相がある。戦略目標の転換があっても、経済状態に応じて、どのように金融政策を動かすかは説明されていない。市場は、金融政策がどう動くかの予測がつかなくなることで翻弄(ほんろう)されることになりかねない。

 バーナンキ元米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、インフレ目標の金融政策を徹底して、物価安定を図れば、雇用の拡大が図れるという発想が原点であった。しかし今回の0.5%の大幅利下げ開始は、極論をいえば、物価安定は十分に確保しきれていないのに、雇用情勢悪化回避に金融緩和を投入するパラダイムシフトの側面がある。このパラダイムシフトは不確実性を大きくする問題を伴う。

 まず、雇用情勢は、本来は、緊急事態への対応に位置づけられる0.5%の大幅利下げを要するほど悪いだろうか。7月の雇用統計で、失業率が4.3%にまで高まった。これで、失業率の3カ月移動平均の過去1年以内の最低値を0.5%上回ると景気後退が到来するというSRI(Sahm Recession Indicator)基準にヒットし、政策決定者に強い緊張をもたらした。7月時点では、新規失業保険申請件数の増加もあった。しかし、その後、新規失業保険申請件数の悪化は止まっており、アトランタ連銀のGDP(国内総生産)成長率の即時推計「GDP Now」は、24年7~9月期の成長率を過熱といえる2.9%でみている。SRIが示す通りに景気後退が起きるかは断定できない。

 パウエルFRB議長は、9月18日の会見で、当座の米景気に深刻な懸念がないことを語っている。それでいて、0.5%の大幅利下げに動いたのは、経済成長は着実、失業率はほぼ完全雇用レベル、インフレは2%に向かって下がる自信を持てるという非常に良好な経済状態を保つための措置だとした。この説明では、経済状態、経済見通しがどうなった時に、金融政策が動くのかが、金融市場から見えない。経済成長、雇用、インフレのどれが良好でないとみているのか、それに割り当てる政策は何なのか、その政策をどれだけ動かせばよいのか、市場は見きれなくなってしまった。

不確実性高まる

 米国は大統領選挙が迫ってきているが、今のところ、トランプとハリスのどちらが勝ちそうか見きれていない。また、議会選挙は民主党、共和党の伯仲が続くと見込まれている。その場合、来年以降の経済政策がいかなるものになるかの見通しが持てない。

 その中で、市場は雇用情勢悪化回避に重きをおく金融政策が、いったいどうなるのかが見えないという不確実性を抱えこんでしまったことになる。悩ましい時間が始まりそうだ。

(鈴木敏之・グローバルマーケットエコノミスト)


週刊エコノミスト2024年10月8日号掲載

FOMCが大幅利下げ 雇用情勢悪化回避を最優先 金融政策の動きが不透明に=鈴木敏之

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